

結城教授の深掘り!介護保険
居宅の公正中立の維持で、有料ホームの「囲い込み」はなくなるのか?-国の検討会に期待したいこと
- 2025/04/25 09:00 配信
- 結城教授の深掘り!介護保険
- 結城康博
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4月14日、厚生労働省の「有料老人ホームにおける望ましいサービス提供のあり方に関する検討会」が始まった。昨今、問題となっている有料老人ホームにおける問題-例えば、運営やサービス提供、指導監督など―について議論されるようだ。この検討会で、私が注目しているのは、住宅型有料老人ホーム(住宅型有料)やサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)などの過剰なサービス(いわゆる「囲い込み」)に対し、どのような方向性が打ち出されるのか、だ。居宅介護支援のケアマネジャーの独立性・中立性の確立と大きく関わる問題であり、どうしても目が離せない。ずっと前からこの問題を意識してきた身としては、「ようやくか…」といった思いもあるが、それでも議論されないよりは、はるかにましだろう。今月は、このテーマについて深掘りをする。
一部のケアマネは「利潤」追求の急先鋒
利用者の自立と尊厳にとって必要かどうかでサービスの利用を判断し、要介護(支援)者のケアプランを立てる―。当たり前のことながら、これこそがケアマネのあるべき姿である。
しかし残念なことに、制度創設当初から、自分が所属する法人や事業所の利益を優先し、「囲い込み」に加担してきたケアマネがいたことは否めない。
特に、部屋代が安価な住宅型有料では、「囲い込み」ありきでビジネスモデルが構築されているケースも珍しくはない。そして、「利潤」追求のための「呼び水」、というより急先鋒としての役割を担っているケアマネが一部、存在していることも事実だ。
「囲い込み」への対応その1-ケアマネ「一律1割減算」を!
住宅型有料やサ高住は、本質的には住宅であるため、そこに住んでいる要介護者に関わるケアマネも、十人十色の対応があるべきだ。当然ながら、十人十色の対応が求められるのに、対応できるケアマネが系列の居宅介護支援事業所のメンバーのみでは心もとない。関与できるケアマネの選択肢も、できる限り増やしておくのが筋である。
その実現のために、住宅型有料やサ高住と同じ系列の居宅介護支援事業者が、その住人を担当する場合、居宅介護支援費を「原則10~20%減算」とすべきだ。
現行制度に既にある「同一建物減算(5%減算)」とよく似た仕組みだが、要件を「同一建物」ではなく、「関連事業所(系列法人)であれば、一律『10~20%減算』とする」という点がポイントである。
系列に対する減算策を導入すれば、住宅型有料やサ高住と同じ系列の居宅介護支援事業所といえども、無節操な「囲い込み」は控えるようになるのではないだろうか。そして、近隣のケアマネが住居者の担当となるケースが増えていくに違いない。
ちなみに、既にある「同一建物減算」についても、5%程度の減算では大した効果は期待できない。系列への減算導入と併せて、既存の「同一建物減算」の減算率も10~20%に引き上げるべきだろう。
「囲い込み」への対応その2-訪問介護への「義務」導入
さらに、住宅型有料やサ高住と同一建物にある訪問介護・通所介護事業所(系列法人)などに「総利用者のうち、同一建物に居住する以外の要介護者を一定程度、担当しなければならないければならない」といった、新規定を設けるのはどうだろう。
周知のとおり、地域住民を対象とする訪問介護の供給主体が減少傾向だ。そのため、地域の要介護者の担い手となる責務を、これらの訪問介護事業者に義務化していくことは、地域の介護の担い手不足のためにも有効である。
「囲い込み」への対応その3-住宅有料などの設置も事業計画で!
住宅型有料とサ高住の供給量は「過剰」傾向にあるようだ。事実、倒産するケースも散見されるようになった。この現実を思えば、住宅型有料やサ高住においても「参入障壁」を設けるべきだと思う。
具体的には市町村(保険者)が、住宅型有料やサ高住の参入にあたって許認可権者となるべきである。言い換えるなら、住宅型有料もサ高住も、特養や老健と同様、介護保険事業計画に基づき、開設できる事業所の数を決めていく仕組みにするということだ。
「囲い込み」への対応その4-系列の居宅にも独立性・中立性を!
そして、この問題を解決するために不可欠なことが、独立型の居宅介護支援事業所を増やし、中立・公正性を担保することだ。
だが、独立型の居宅介護支援事業所は、なかなか増えそうにない。その現実を思えば、今回の検討会では、事業所や法人に属する居宅介護支援事業所の独立性・中立性を高めるための対策についても、真剣に検討してほしい。
競争原理神話からの脱却を!
介護保険制度が誕生し、25年が過ぎた。この間、「競争原理」に基づき、株式会社やNPO法人にも門戸が広げられ、多様な担い手が介護業界にも参入できるようになった。しかし、多様な担い手の参入という「光」が強まった反面、過剰な利潤追求という「影」も、より深くなってしまった。
「囲い込み」問題は、その「影」の典型例といえる。その意味では、介護保険制度における「競争原理」のメリット・デメリットも、そろそろ真剣に検証しなければなるまい。それができなければ、この問題の根本的な解決にはいたらない。

- 結城康博
- 1969年、北海道生まれ。淑徳大学社会福祉学部卒、法政大学大学院修了(経済学修士、政治学博士)。介護職やケアマネジャー、地域包括支援センター職員として介護系の仕事に10年間従事。現在、淑徳大学教授(社会保障論、社会福祉学)。社会福祉士や介護福祉士、ケアマネジャーの資格も持つ。著書に岩波ブックレット『介護職がいなくなる』など、その他著書多数がある。
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