弁護士からの応援寄稿「知っておきたいトラブル事例と対応策」

有料老人ホームの囲い込み問題について

住宅型有料老人ホーム(住宅型有料)やサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)を運営する事業者は、「同じ建物内にデイサービスや訪問介護事業所を併設し、入居者にサービスを提供する」というビジネススタイルを取ることが多いようです。同じ建物・敷地内なので、入居者にとっても便利といえますが、一方で、事業者が入居者を囲い込み、他事業所のサービスを利用させない状態においているとも言え、問題視する人も少なくないようです。事例を通してこの問題を考えてみましょう。

ケアマネの目の前で「入居なら交代」…露骨すぎる「囲い込み」

住宅型有料に入居することになった自分の担当するご利用者が、ケアマネの交代を求められた上、系列のサービス事業所を利用するよう強要され、困っています。

ご利用者(78歳女性、要介護2)は、ご主人を数年前に亡くされて以来、ずっと一人で生活されてきましたが、足の力も衰え、転びやすくもなってきました。その状況に不安を感じた隣県に住む息子さんが「頼むから、老人ホームに入って下さい」と懇願したこともあり、ご利用者もホームへの入居を真剣に検討し始めました。

いくつか施設を見学した結果、住んでいる家からほど近い場所に、ご利用者の希望に合致した住宅型有料が見つかり、早速、入居相談をしました。ケアマネである私も交代しないで済むし、使っているサービスも継続できる立地だったからこそ、ご利用者も入居に前向きになれたという側面もあったのです。

ところが―

相談に応じた施設職員は、私を目の前にしながら「入居されるなら、ケアマネは交代してもらうことになります。こちらが指定した居宅介護支援事業所に変更してもらわなければいけません」と明言。さらに、「サービスもこちらの施設内にあるデイサービスを使って頂くことになります。その方が便利ですから皆さんそうされています」とも言いました。

住宅型有料が、ご利用者の「囲い込み」をしていることは、私も知ってはいました。ですが、ここまであからさまなに対応は、さすがにおかしいです。思わず私も「ケアマネ交代とか、使うサービスの指定とか、一方的に指定する権限があなた方にあるのですか。これでは利用者の意向も尊厳も、無視していることにならないですか」と口をはさみました。

しかし、その職員は動じることもなく「事業所選びについては、こちらに入居頂く際の規則です。入居後の施設の生活や環境は、うちのことを良くご存知のケアマネさんが担当する方が、ご利用者のためにもなると思います。デイサービスについては、私たちが指定するデイ以外の施設を使っていただくことも可能ですが、その場合、家賃が割高となります」と、答えるのみ。全く譲る気配もありません。

ここまで露骨なやり方は法律的に問題ないのでしょうか。できることなら生活の拠点をホームに移しつつ、私が引き続き担当したいのですが…

A 決めるのはご利用者!どうされたいのか、じっくり希望を聞き出しましょう

近年、戸建ての利用者宅を主な顧客とする訪問介護事業所やデイサービスが減る一方、駅前の老人ホームやサ高住に併設された訪問介護事業所やデイサービスが増えつつあるように思います。もしかすると、こうした「囲い込み」は、これまでにも増して当たり前の存在となってきたのかもしれません。

事実、入居前の段階で「併設・隣接事業所以外を含め、他の事業所が提供するサービスも利用できること」を説明している施設は、住宅型有料で62.3%、サ高住で74.9%という、国の統計もあります。裏を返せば4割近くの老人ホームが「外部サービスは利用できない」と説明していることになるわけですが、介護保険の基本理念に照らせば、これは明らかなミスリードです。

それにもかかわらず、こうした強引な囲い込みがまかり通っていること自体、大きな問題ともいえるでしょう。

国もその課題を認識しているようです。2025年4月、厚生労働省は「有料老人ホームにおける望ましいサービス提供のあり方に関する検討会」を開きました。その中で解決すべき課題として「入居者に対する過剰な介護サービスの提供(いわゆる「囲い込み」)に加え、入居者保護や入居紹介業をめぐる事案など、有料老人ホームの運営や提供されるサービスに関する透明性・質の確保に関する課題もある」が示されています。

利益を追求する住宅型有料やサ高住の事業者側からすれば、「家賃はできる限り安くするから、その代わりうちのサービスを使ってね」という思惑があるのでしょう。でも、だからといって、その言いなりになる必要は全くありません。

特にケアマネは、その運営基準に「指定居宅介護支援の事業は、利用者の心身の状況、その置かれている環境等に応じて、利用者の選択に基づき、適切な保健医療サービス及び福祉サービスが、多様な事業者から、総合的かつ効率的に提供されるよう配慮して行われるものでなければならない」(第一条の二、2項)と明記されているのですから、ご利用者に勧めるサービスは、多様なサービスの中から選ばれなければなりません。

そもそも、当事者のご利用者(またはそのご家族)に選択権があることは民法上、当然の原理です。

この民法上の原理から考えても、運営基準でケアマネに求められる役割から考えても、今回のケースのようなあからさまな「囲い込み」は、認められるものではありませんん。施設が引かないようなときは、管轄の都道府県に苦情申し立てをすることも考えられます。

ちなみに、先に述べた通り、厚労省は「囲い込み」に注目し、有識者会議でも問題提起しています。それを思えば、2027年度の介護報酬改定では、住宅型有料やサ高住のビジネスモデルへの規制を強める仕組みが導入されても不思議はありません。

外岡潤
1980年札幌生まれ。99年東京大学文科Ⅰ類入学、2005年に司法試験合格。07年弁護士登録(第二東京弁護士会)後、ブレークモア法律事務所、城山総合法律事務所を経て、09年4月法律事務所おかげさまを設立。09年8月ホームヘルパー2級取得。09年10月視覚障害者移動介護従業者(視覚ガイドヘルパー)取得。セミナー・講演などで専門的な話を分かりやすく、楽しく説明することを得意とし、特に独自の経験と論理に基づいた介護トラブルの回避に関するセミナーには定評がある。主な著書は『介護トラブル相談必携』(民事法研究会)、『介護トラブル対処法~外岡流3つの掟~』(メディカ出版)、『介護職員のためのリスクマネジメント養成講座』(レクシスネクシス・ジャパン)など。「弁護士 外岡 潤が教える介護トラブル解決チャンネル」も、運営中。

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