一人ケアマネの歩き方~独立を目指すケアマネのための実践ガイド~
独立型ケアマネの生存戦略〜介護報酬に依存しない多様な働き方〜
- 2025/05/16 09:00 配信
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- ヒトケア
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「いつかはケアマネジャーとして独立したい」―。こんな思いを抱いているケアマネジャーの皆さんも多いのではないでしょうか。本連載ではそのような皆さんに向けて、居宅介護支援事業所の独立開業に向けた具体的なステップや経営のリアル、さらには独立後の生存戦略まで、“生粋の一人ケアマネ”である筆者の経験を交えながらお伝えしていきます。
これまでの連載では、私自身の独立までの経緯をはじめ、独立型居宅介護支援事業所のメリット・デメリット、リアルな収支モデル、そして独立開業に向けた準備や手続きについて、具体的にお伝えしてきました。
最終回となる今回は、「独立型ケアマネの生存戦略」をテーマに、介護報酬に依存しない多様な働き方についてご紹介します。
制度に依存せず、自分らしい働き方を長く続けていくためには、どんな視点と工夫が必要なのか。一人ケアマネとして独立を志す方にとって、“これから”の働き方を考えるヒントになれば幸いです。
独立ケアマネが介護報酬に頼る危うさ
独立型の一人ケアマネとして事業を続けていく上で、私が感じているリスクの一つが、介護報酬(居宅介護支援費)に依存した経営を続けることです。
「制度に守られているようで、実は制度に振り回される…」
そんな矛盾を抱えながらの経営は、時に大きな不安をもたらします。
ここでは、一人ケアマネが介護報酬に頼る危うさについて、具体的な視点から見ていきましょう。
3年ごとの介護報酬改定に経営状況が左右される
介護事業者が経営を続ける上で避けて通れないのが、「3年ごとに行われる介護報酬改定」です。
介護報酬は、国の政策や社会情勢によって見直しが行われ、それが事業所の収入に直結します。日々、どれだけ丁寧に支援を積み重ねていても、報酬単価の引き下げが行われれば、翌年度から収入が減少するリスクを常に抱えているのです。
一人ケアマネの場合、事業所の売り上げは自分一人の担当件数に大きく依存することになります。規模の小さい事業所ほど、報酬改定による影響をダイレクトに受けやすく、経営基盤の脆弱さを痛感させられます。
一人ケアマネは特定事業所加算が算定できない
独立型の一人ケアマネは、「特定事業所加算を算定できない」という構造的な不利を抱えています。
特定事業所加算は、一定の基準を満たす、「質の高いケアマネジメント」を提供する事業所の居宅介護支援費に上乗せされます。しかし、その取得要件には「複数の常勤ケアマネジャーの配置」などが含まれており、一人ケアマネという運営形態では算定が不可能となっています。
そのため、独立型の一人ケアマネが収入を増やしていくためには、基本報酬の下で担当件数を増やしていくしかありません。
担当件数の増加が招く、気力の消耗
しかし、この「担当件数を増やす」という選択もまた、大きなリスクを抱えています。それは、気力の消耗によるバーンアウト(燃え尽き症候群)です。
担当件数が多くなれば必然的に緊急対応も増え、日常的に緊張状態を強いられるようになります。私自身、担当件数が45件に達した時には、時間外や休日を問わず、常に利用者のことが頭から離れない状態が続きました。
こうした状態が長期間続くと、緊張の糸が切れる危険性は高まります。
だからこそ、「担当件数を増やして売り上げを伸ばす」という経営戦略は、大きなリスクとなり得るのです。
独立ケアマネだからこそ実現できる“多様な働き方”
収入を介護報酬だけに依存することによるリスクを軽減し、より自由で持続可能な働き方を実現する方法として、介護報酬以外の収入源を持つことをおすすめします。
ここからは、独立ケアマネだからこそ可能になる“多様な働き方”について、考えていきましょう。
複数の収入源を持つことのメリット
介護報酬以外の収入源を持つことは、さまざまなメリットがあります。ここでは、私が実感している3つのメリットについてご紹介します。
一つ目は、リスクの分散です。
介護報酬だけに依存していると、報酬改定に伴う報酬単価の変動や、担当件数の減少が経営に直結します。しかし、別の収入源があれば、たとえ介護報酬が減少したとしても、すぐに経営が傾くリスクを軽減することができます。
二つ目は、売上の天井がなくなることです。
居宅介護支援業務は、担当できる件数に上限があるため、事実上、売り上げに限界があります。しかし、副収入を得ることで、売り上げを積み上げる新たな道が開けます。
ここで意識したいのは、金額を目的にしないことです。私自身、副業では「価値を届けること」を優先し、売り上げは後からついてくるものだと考えています。この順序を守ることで、本質を見失わず、「価値提供」の結果として報酬を得ることができています。
そして三つ目は、新しいつながりが広がることです。
本業以外の活動を通じて、これまで出会わなかった人達と新たなつながりが生まれます。異業種や新しい領域との交流によって、視野が広がることも少なくありません。
こうしたつながりは、単なる収入増にとどまらず、ケアマネとしての成長や、将来の新たな可能性へと広がっていることを実感しています。
私が実践しているケアマネ×副業の具体例
では、ケアマネが行える副業には、具体的にどのようなものがあるのでしょうか?
ここでは、ケアマネとしての経験や専門性を生かし、私自身が実際に取り組んでいる副業を3つご紹介します。
1. ブログ運営
私が最初に始めた副業は、「ヒトケアの仕事術」というブログの運営でした。このブログでは、ケアマネ業務の効率化や独立開業に関するノウハウを中心に、自分自身の実体験を交えながら情報を発信しています。
ブログの収益化の方法としては、広告を設置し、クリックや表示回数に応じて報酬を得る「Googleアドセンス」、商品やサービスを紹介し、成果が発生すると報酬を得られる「アフィリエイト」、そして自作のコンテンツを販売する「コンテンツ販売」などがあります。
ブログ運営を成功させるためには、継続的な情報発信と、読者にとって「役立つ」と思えるコンテンツ作りが欠かせません。
収益化は一朝一夕では到達できず、結果が出るまでには相応の時間がかかります。他方、地道に続けることで、本業を超える売り上げを得られる可能性を秘めているのが、ブログ運営の大きな魅力でもあります。
2. 研修・セミナー講師
ケアマネとして培った実務経験や知識は、研修やセミナーの講師としても大いに生かすことができます。
私自身、ケアマネ業務におけるICTツールの活用をテーマに、NPO法人や自治体、民間企業などで研修やセミナーを担当させていただく機会が増えてきました。
講師として活動することのメリットは、単に自分の知識や経験を共有できるだけではありません。事前の準備を通じて、改めて知識を整理し、どう伝えれば相手に届くかを考えるプロセス自体が、自分自身の学びの機会にもなっています。
また、一人ケアマネという孤立しやすい立場だからこそ、外部との接点を持つことの価値は非常に大きいと感じています。
3. ライター業
最後にご紹介するのは、ライター業です。
専門的な知識を持ち、現場経験をもとに執筆できる“ケアマネライター”の存在は非常に貴重です。介護系メディアを中心に、人材の需要は確実に存在しています。私自身、こうして本連載の執筆の機会を頂き、ライター業に取り組んでいます。
ライター活動は、副収入を得る手段になると同時に、本業にも良い影響を与えてくれます。文章を書く力は、説明する力にもつながります。どちらにも共通しているのは、「相手の立場に立って伝えること」。これは、利用者や家族、多職種と関わるケアマネにとって欠かせないスキルです。ライター業は、そうした力を自然に磨く機会となり、そこで培ったスキルは本業にも生きることでしょう。
制度に縛られない、自分らしい働き方をデザインする
今回は、独立型ケアマネの生存戦略として、介護報酬に依存しない多様な働き方についてご紹介しました。
制度改正の影響を受けやすく、特定事業所加算も取れない独立型の一人ケアマネにとって、件数を増やすことでしか収入を上げられない状況は大きなリスクとなります。
だからこそ、介護報酬以外の収入源を持つことは、自由で持続可能な働き方を実現するための鍵となります。私が取り組んできた副業の具体例も参考にしながら、ぜひ皆さんも「得意」や「好き」を生かせる自分らしい働き方を見つけてみてください。
今回で「独立型 1 人ケアマネの歩き方」は終了となります。ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。独立を目指す全てのケアマネの皆さんを、これからも応援しています。

- ヒトケア
- 2012年にケアマネジャーとしてのキャリアをスタート。2015年には居宅介護支援事業所を開業し、現在も「一人ケアマネ」として活動している。ケアマネ歴12年以上の経験を基に、業務効率化や居宅介護支援事業所の立ち上げノウハウを発信するブログ「ヒトケア(一人ケアマネ)の仕事術」を運営。NPO法人タダカヨが運営する介護従事者向けオンラインPCスクール「タダスク」の講師も務めている。
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