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小濱道博の介護経営よもやま話

2025年度の居宅介護支援における運営指導の留意点(2)

居宅介護支援の運営指導において最も頻繁に確認されるのが、アセスメントとケアプランとの整合性である。

コロナ禍明け以降、利用者の状態や背景に応じた個別的な支援方針が反映されていないケアプランは、「記録内容の不備」を指摘される傾向にある。

例えば、「認知症対応」や「独居支援」などを画一的に処理していたある事業所は、「他の利用者と類似し過ぎた記述で個別性が確認できない」として、行政から是正指導を受けた。

これに対して事業所は、アセスメント様式に「ケアマネの所見欄」「生活歴に基づく配慮事項欄」などを設け、記録の記載内容を補強。さらに、ケアプラン第1表に「課題分析に基づいた支援方針の理由」欄を追加するなどして、職員の共通理解を深めるとともに、ケアマネジャー間の記録の質の平準化を図った。

担会の具体的な記録とプランへの反映

サービス担当者会議においても、開催の有無だけでなく、協議内容の具体性とその反映状況が重要視されている。

昨年度に実施された行政指導では、会議録は存在していたものの、どのような話し合いがなされ、ケアプランにどう反映されたかの記録が一切確認できず、「形骸化した会議」と評価されたケースもある。

改善策としては、会議録を「意見内容」「合意事項」「計画反映」の3区分で構成し、どの意見がどのようにケアプランへ反映されたかを見える化する方法などがある。

ケアプラン第2表の該当箇所に「令和●年●月の担当者会議にて変更」などの注記を入れておけば、決定プロセスの追跡性も向上するであろう。加えて、AIを活用したICレコーダーを使い、会議の録音メモや議事の要点をクラウド上に保存しておくことで、監査や訴訟時の対応に備えた管理体制を整える方法もある。

給付管理と実績の照合体制の強化

給付管理業務では近年、「記録と請求の齟齬」に関する指摘が増加している。

とある自治体では、モニタリング記録で「特段の変化無し」と記載されていたにもかかわらず、実際には当該月にサービスのキャンセルが頻発していたことが発覚し、行政から「記録の虚偽」「確認不足」を指摘された指導事例もある。

事業所内における有効な対応策としては、(1)サービス事業者からの提供票(実績)を給付管理前に必ず確認(2)支援経過記録と照合(3)「給付内容確認表」にチェックを残す―という「三重管理」がある。

また、ミスが判明した場合は「記録修正履歴簿」を活用し、修正日、修正理由、修正担当者、確認者の記録を義務付け、記録の改ざんや意図的な操作が疑われない体制を構築しておくことも重要である。

BCPの実効性と職員体制との連動

業務継続計画(BCP)については、「策定済み」と提示するだけでは不十分であり、「研修、訓練が行われていない」「職員に内容が伝わっていない」という理由で文書不備と見なされるケースもある。

ある行政指導では、BCPがマニュアルとして保管されていたものの、職員が誰も内容を把握しておらず、訓練の実施履歴もなかったため、「運用体制に重大な欠陥がある」とされた。

これを受け、この事業所では年1回のBCP訓練を実施。「感染症」「大規模地震」「通信障害」の3つのテーマで、グループワーク形式のシミュレーション訓練も導入した。

さらに訓練後は、参加した職員から「対応記録」「振り返りシート」「問題点と改善提案」を回収し、次年度に向けた改善サイクルを可視化。さらに、安否確認、代替支援ルート、緊急連絡フローを含む「BCP対応チャート」を事業所内に掲示し、非常時も即応できる体制を構築した。

主任ケアマネ機能の可視化と記録整備

主任ケアマネについては、単なる「配置」だけでなく、「機能」も確認されるようになっている。

ある行政指導では、主任ケアマネは配置されていたものの、後進の育成やケースの検討に関する記録が皆無だったため、「実質的に機能していない」と判断され、改善報告が求められた。

改善策としては、「主任ケアマネ月次活動記録簿」の導入がある。個別指導実績、研修対応、ケース検討会の内容と指摘事項を記録し、法人内の共有フォルダで管理することで、他の職員と情報共有を図るとともに、指導内容の継続性を担保できる。

また併せて、「職員相談・助言対応記録」によって、相談内容、指導内容、フォローアップ対応の流れを記録することで、主任ケアマネの活動実態を可視化する体制を構築できる。

記録の信頼性とICTによる精度向上

記録の「作成時期」や「内容の信頼性」も、重要な指導項目となっている。訪問の実態がないのに「訪問済み」と記録されていた場合などでは、重大な虚偽記載として、行政から報酬返還や報告義務を求められることもある。

こうしたリスクを回避するため、ある事業所では、記録の音声入力アプリを導入し、訪問後即時に支援経過を記録できる環境を整備した。システム上で「タイムスタンプ機能」が備わっている場合は、記録内容と入力時間の整合性が自動で担保されるであろう。

事業所内で、管理者が記録内容の遅延・重複・誤記を月次でチェックする運用を構築することで、記録の信頼性は格段に向上する。加えて、職員に対しては「記録の正確性=サービスの質」であり、それが「請求の根拠」になるという意識啓発を継続的に行うことが必要である。

「帳票整備」から「業務改善」に転換を

このように、近年の運営指導では、帳票の有無や整備状況だけでなく、そこに記録された内容が実態と合致しているか、業務プロセスが持続可能であるかが重点的にチェックされる。

ただ記録を整えるだけでなく、それが実務と直結していることを証明する「文脈のある帳票整備」と「組織全体での対応体制の構築」が求められる。

運営指導は単なる行政検査ではなく、自事業所の弱点を可視化し、業務の質を次のステージへと引き上げる契機でもある。

常に「外部から見える、説明できる」業務運営を意識し、記録・体制・人材育成の全てを結び付けた総合的な改善を行うことこそが、今後の運営指導への最も確実な備えである。加えて、制度を熟知するブレーンを身近に置くことや、日頃から疑問点を役所に確認しておくことなど、“グレーゾーン”を残さない業務体制の構築も重要である。

小濱道博
小濱介護経営事務所代表。株式会社ベストワン取締役。北海道札幌市出身。全国で介護事業の経営支援、コンプライアンス支援を手掛ける。介護経営セミナーの講師実績は、北海道から沖縄まで全国で年間250件以上。個別相談、個別指導も全国で実施。全国の介護保険課、介護関連の各協会、社会福祉協議会、介護労働安定センター等主催の講演会での講師実績も多数。C-MAS介護事業経営研究会・最高顧問、CS-SR一般社団法人医療介護経営研究会専務理事なども兼ねる。

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