

小濱道博の介護経営よもやま話
ケアマネが知っておくべき「ダイバーシティ問題」
- 2025/07/31 09:00 配信
- 小濱道博の介護経営よもやま話
- 小濱道博
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現在、日本は超高齢社会のまっただ中にあり、高齢化率30%が間近に迫っている。その一方で、生産年齢人口は減少の一途をたどり、人手不足が深刻化している。
介護も例外ではなく、外国人労働者の数は6万人を超え、もはや現場で不可欠な存在となっている。今年4月1日からは、訪問介護においても技能実習生の活用が可能となり、外国人材の活躍の場はさらに広がっている。
今や外国人スタッフの割合が20%を超える施設も珍しくなく、文化の違いがトラブルの原因となるケースが増加している。
こうした動きに伴い、ケアマネジャーも、文化的な背景の異なる介護スタッフの理解という新たな課題に直面している。多様性、すなわちダイバーシティを理解し、適切に対応できなければ、介護スタッフの離職やケアの質の低下を招きかねない。
今回は、ケアマネジャーが知っておくべきダイバーシティ問題とその対策について、利用者・家族と従事者双方の視点から考察する。
宗教的な理由で職場内に不和も
介護現場におけるダイバーシティ問題は多岐にわたるが、特に宗教、国籍、そして「SOGI」(Sexual Orientation=「性的指向」とGender Identity=「性自認」の頭文字を組み合わせた言葉)に関連する課題が顕著である。
イスラム教徒の外国人介護士(主にインドネシア人)の場合、利用者の食事に豚肉が含まれると、宗教的な理由で食事介助などを拒否することがあり、これが職場内の不和につながる事例が多発している。また、受け入れ現場で礼拝の時間が確保されず、ストレスが蓄積してしまった結果、退職を余儀なくされた技能実習生の事例も報告されている。
ヒジャブ(頭を覆う布)を着用した女性介護士が、認知症の利用者に「怖い」と受け取られ、ケアの拒否につながったケースもあるという。
外国人介護士を現場で受け入れる前の段階で、宗教や文化に関するオリエンテーションを職場内で実施し、ハラル食メニューの準備や、礼拝のための柔軟なシフト調整などの対応を進めておくことは、宗教的配慮を示す上で効果的である。
均等待遇を徹底し、労基法順守を
国籍を理由とした賃金差別や待遇格差も発生している。
技能実習制度においては、日本人と同等以上の報酬とすることが求められる(技能実習法第9条)。法的強制力に限界はあるものの、例えば、技能実習生が日本人職員よりも低い賃金で過重労働を強いられ、彼らがそれを差別と感じた場合、労働基準法第3条(均等待遇)に抵触する恐れがある。
公平な労働環境を保障するためには、賃金などにおける均等待遇を徹底し、労働基準法を順守することが重要である。
特定技能の採用においては、退職のノウハウがSNS上で拡散され、集団退職に発展した事例もあり、生活支援の不足が深刻な問題を引き起こす可能性も示唆されている。住宅や医療に関する相談窓口を設置するなど、生活面でのサポートを強化することも、スタッフの定着につながるであろう。
“SOGIハラ”で適応障害や離職も
介護現場における事例は少ないものの、外国人介護士自身がSOGIの多様性を持つ場合、職場内の理解不足による差別が問題化する。
例えば、出生時に割り当てられた性と性自認が異なるトランスジェンダーの外国人労働者が、トイレや更衣室の使用を制限され、精神的ストレスを抱えるケースが報告されている。
“SOGIハラスメント”として、差別的な言動や「アウティング」(許可なくSOGIを公表)により、適応障害や離職につながる事例も報告されている。保守的な文化背景を持つ外国人介護士が、同僚に対して差別的な言動をとることも、職場の調和を乱す要因となり得る。
職場においては、ハラスメント研修の実施や「差別禁止ポリシー」の策定が急務である。また、「オールジェンダートイレ」の導入検討や、性自認に基づく「通称名」の使用推奨も、職場環境の改善に寄与する。さらに外国人労働者向けに、異文化理解を深めるワークショップを開催することも有効であろう。
利用者・家族の課題とケアマネの役割
利用者やその家族は、外国人介護士やSOGIなど多様性を持つスタッフに対して、偏見や誤解から拒否反応を示すことがある。
特に高齢の利用者の場合、「外国人嫌い」の感情を抱くこともあり、これがケアの提供を困難にしている。利用者から「男か女かわからない」と言われるなどのハラスメントを受ける事例もあり、こうした偏見がスタッフのモチベーション低下を招くことがある。
このような状況においてケアマネジャーは、利用者やその家族への啓発と理解促進に努める必要がある。異性介助拒否のようなケースでは、ケアプランの変更で代替スタッフを調整しつつ、時間をかけて偏見の是正を促すことも重要である。
ケアマネジャーから、外国人介護士の専門性の高さや献身的な姿勢について伝え、彼らが質の高いケアを提供できることを理解してもらうことが不可欠である。
ダイバーシティがもたらす課題を、組織が成長する好機と捉え、インクルーシブな介護現場を築くことが、今後の介護を支える土台作りの鍵となるであろう。厚生労働省のサイトや関連事例集を参考に、積極的な取り組みが期待される。

- 小濱道博
- 小濱介護経営事務所代表。株式会社ベストワン取締役。北海道札幌市出身。全国で介護事業の経営支援、コンプライアンス支援を手掛ける。介護経営セミナーの講師実績は、北海道から沖縄まで全国で年間250件以上。個別相談、個別指導も全国で実施。全国の介護保険課、介護関連の各協会、社会福祉協議会、介護労働安定センター等主催の講演会での講師実績も多数。C-MAS介護事業経営研究会・最高顧問、CS-SR一般社団法人医療介護経営研究会専務理事なども兼ねる。
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