弁護士からの応援寄稿「知っておきたいトラブル事例と対応策」
ケアマネジャーが「法」を味方につけるポイントまとめ
- 2025/08/22 09:00 配信
- 弁護士からの応援寄稿「知っておきたいトラブル事例と対応策」
- 外岡潤
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これまで50回に渡り連載させて頂きましたが、今回で一区切りとし、次回から私の事務所に所属する別の弁護士に引き継がせて頂きます。突然のお知らせとなりますが、これまで有難うございました。
ということで、私にとって最終回となる今回は、現場のケアマネが特に巻き込まれやすい「法的トラブル」の主な類型をご紹介し、そうしたトラブルを避けるための注意点と、万が一、巻き込まれてしまった場合の対処法をまとめてお伝えします。
類型1 業務範囲外のことを求められる
「母が熱っぽくて心配なんです。様子を見に来てください」という心配性の家族。
「今日は予定で一杯なので行けない」と答えたところ、「もし母が手遅れになったと思うと不安で仕方ありません。どうかお願いします」と懇願された。仕方なく訪問したところ、以後、何かにつけて呼び出されるようになってしまった。
【解説】
4年前の第1回で取り上げたことですが、この問題は現在でもグレーゾーンやシャドーワークと呼ばれ、依然として現場に残っています。
この手の全てのトラブルに関わる最重要ポイントは、「ケアマネの業務範囲は連絡調整である」という点です。困ったときは常にこの原理原則に立ち返りましょう。
本件を予防するには、利用契約時、重説などに以下のような文章で説明することが考えられます。
- 介護保険制度上、ケアマネジャーの業務は居宅サービス計画の作成・他事業者等との連絡調整が主となります。
- ケアマネジャーがご利用者様・ご家族様の便宜のため、日常の雑務や見守り、日常的な電話による安否確認、買い物、外出支援等を代行することはできません。
- ケアマネジャーが、ご利用者様の通院に付き添ったり、送迎したりすることは、生命の維持に関わるような緊急やむを得ない場合を除きできません。
- 付き添いなどが必要な場合は、訪問介護等の別サービスをご利用頂く必要があります。
それでも分かって頂けない利用者家族もいるかもしれません。実際にこうした事例に直面したときは、「お母様についてご心配されるのはもっともです。しかし、介護保険制度上、ケアマネジャーの業務は居宅サービス計画の作成・他事業者らとの連絡調整が主となります。モニタリングなどの本来業務以外の理由で適宜ご訪問するということは致しかねます。もし必要であれば医療機関にお繋げします」など、万一、緊急事態であったときの配慮もしつつ、お断りすることになります。
類型2 カスタマーハラスメント
先の事例でご家族から「ケアマネのくせに利用者のことが気にならないんですか、薄情者!前のケアマネはすぐ飛んできてくれましたよ。もし母が手遅れになったら責任取ってくれるんですか」という言い方をされた、どうでしょうか。
【解説】
カスタマーハラスメント(カスハラ)に該当する可能性があります。
カスハラとは、厚労省によれば「顧客や取引先からのクレーム・要求等のうち、その言動が社会通念上相当な範囲を超え、労働者の就業環境を害するもの」と定義されます。
カスハラに該当するかどうかは、ケースバイケース。「社会通念上相当な範囲を超え」たといえるか否かを判断する必要があります。
本件の場合はカスハラが成立するといえるでしょうか―。
正直、難しいところですが、私としては「カスハラと即断するのは、不十分。こちらから訪問できない理由を丁寧に説明し、それでも要求を押し付けてくるのであればカスハラと認定すべき」と考えます。
コミュニケーションは言葉のキャッチボールです。お互いが言葉を介して考えや思いを伝え、それを踏まえた上でのやり取りができる分には、話し合いが成立しているといえます。しかし、利用者側がキャッチボールをしようとせず、一方的に意見を押し付ける、“千本ノック”のような状態であれば、カスハラと言わざるを得ないでしょう。
対策としては、そのようなコミュニケーションを取ろうとしたことを時系列にそって記録に残し、後から立証できるようにしておくことが重要です。最も効果のある記録は実際の相手方との会話の録音になりますが、利用契約を交わした相手であれば録取するときいちいち同意を得る必要はありません。
カスハラの予防策としては、先に挙げたような契約書や重説への記載などが挙げられますが、まずは「カスハラは許されないことである」という空気を醸成し、関係者に啓発していく目的で、ポスターを事業所内に掲示することから始められると良いでしょう。
こちらから、どなたでも無料で何枚でも、カスハラ防止啓発ポスターを取得頂けます。
A3サイズでカラー印刷し、事務局のカウンターや掲示板に貼って頂くと、間接的にカスハラに対する問題意識を啓発することができます。是非ご活用ください。
類型3 個人情報の開示を求められた
担当ご利用者が逝去し契約が終了した。半年後、ご利用者の次男を名乗る人から電話があり、「母の生前の介護に関する記録を開示してほしい」と言われた。キーパーソンだった長男を通して欲しいと伝えたところ「そんなの関係ないだろう。言われたとおり出せ」と言われた。
【解説】
弁護士として相談を受けることが多い、個人情報の開示の問題です。結論からいうと開示は断るべきと考えます。「ご長男を通すか、許可を得て頂かないと開示はできません。ただし、弁護士を雇い弁護士会を通じて照会して頂いた場合は例外的に開示できます」と伝えましょう。
亡くなったご利用者の個人情報の遺族への開示については、厚生労働省の個人情報に関するガイドラインで引用する医師会の指針「8.遺族への診療情報の提供の取り扱い」において、「診療記録の開示を求め得る者」として「患者の配偶者、子、父母およびこれに準ずる者(これらの者に法定代理人がいる場合の法定代理人を含む。)」とされています。これによるとキーパーソン以外の子も対象となるため、遺族からの請求であれば原則応じなければならないことになります。
しかし、同指針の8項では「患者の状況等について、家族や患者の関係者が医療従事者に情報提供を行っている場合に、これらの者の同意を得ずに患者自身に当該情報を提供することにより、患者と家族や患者の関係者との人間関係が悪化するなど、これらの者の利益を害するおそれがある場合」には「診療情報の提供の全部又は一部を提供しないことができる」とされています。
遺族の間で相続などが原因で対立がある場合には、この規定を根拠として施設側の判断で身元引受人以外の者に対する開示を拒むことも許されると解釈できます、これが断る根拠となります。
この手のトラブルの予防策としては、事業所の個人情報管理規定などに、開示請求権者として「本人が死亡している場合は、死亡時に身元引受人の立場にあった者または身元引受人から許可を得た本人の親族若しくはこれに準ずる者が、申出をすることができるものとする」などと明記しておくことが挙げられます。
今回取りあげたテーマは筆者の運営するユーチューブでも解説していますので、ご参照ください。
私の本シリーズは一区切りとなりますが、事務所ホームページでのコラム掲載やユーチューブ動画は続けて参ります。これからもケアマネの皆様をできる限りサポートし、理不尽なクレームやトラブルからお守りしたいと思います。日々のお仕事の中で、ご利用者やご家族から感謝され疲れが吹き飛ぶこともあれば、嫌な思い、怖い思いをすることもあるでしょう。あまり無理をせず、自分の心の健康を大切に過ごして頂ければと思います。皆様の人生がますます幸せなものとなるよう祈っております。

- 外岡潤
- 1980年札幌生まれ。99年東京大学文科Ⅰ類入学、2005年に司法試験合格。07年弁護士登録(第二東京弁護士会)後、ブレークモア法律事務所、城山総合法律事務所を経て、09年4月法律事務所おかげさまを設立。09年8月ホームヘルパー2級取得。09年10月視覚障害者移動介護従業者(視覚ガイドヘルパー)取得。セミナー・講演などで専門的な話を分かりやすく、楽しく説明することを得意とし、特に独自の経験と論理に基づいた介護トラブルの回避に関するセミナーには定評がある。主な著書は『介護トラブル相談必携』(民事法研究会)、『介護トラブル対処法~外岡流3つの掟~』(メディカ出版)、『介護職員のためのリスクマネジメント養成講座』(レクシスネクシス・ジャパン)など。「弁護士 外岡 潤が教える介護トラブル解決チャンネル」も、運営中。
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