

結城教授の深掘り!介護保険
ついに起こったケアマネ殺人未遂事件~現場はどうする、国はどうすべき?~
- 2025/08/27 09:00 配信
- 結城教授の深掘り!介護保険
- 結城康博
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6月20日、横浜市内のマンションを訪問中のケアマネジャーの女性が、利用者とみられる80代の男性に刃物で複数刺される殺人未遂事件が起こった。訪問中、身の危険を感じた経験が「ある」と回答したケアマネは全体の4割超に上ったというケアマネジメント・オンラインの調査結果もあることを思えば、この事件は、起こるべくして起こった、と言えるかもしれない。今回は、ケアマネをはじめとした訪問系の専門職の身を守るため、現場は何をすべきか、そして国や行政はどんな対策を講じるべきかを、考えていきたい。
在宅の現場は「密室」というリスク
まず認識しなければならないのは、横浜市で起こったケアマネ殺人未遂事件は、在宅の現場を支える介護や医療、福祉の専門職にとって、唯一無二の特異事例ではないという事実だ。
記憶に新しい例でいえば22年1月、訪問看護に怒った利用者が、医師を散弾銃で殺害した事件がある。
さらに、ケアマネジメント・オンラインの調査で、訪問中、身の危険を感じた経験が「ある」と回答したケアマネは全体の4割超いることがわかっている。他の調査でも、ヘルパーや訪問看護師が暴力被害に遭った割合が5%もあるという結果が示されたこともある。「暴言」による被害となると、ケアマネジャーも含めて、2割弱が経験ありだ。(表参照)。
表: 介護現場における利用者やその家族からのセクハラ・暴力等(複数回答)
| 訪問介護(ヘルパー) 4,793人 |
訪問看護(看護師) 1,595人 |
介護支援専門員 2,183人 |
|
|---|---|---|---|
| セクハラ | 8.9% | 11.9% | 3.8% |
| 暴力 | 5.0% | 5.3% | 1.4% |
| 暴言 | 22.2% | 21.4% | 23.1% |
| 経験をしたことはない | 51.3% | 57.0% | 46.2% |
(公)介護労働安定センター『令和6年度介護労働実態調査介護労働者の就業実態と就業意識調査結果報告書』資料編95頁2025年7月より
加えて、生活保護の現場においては、ケースワーカーらが暴力事件に巻き込まれるのは、珍しい話ではない。
在宅の現場は、利用者宅という「密室」でもある。上記の調査結果なども思い合せると、女性専門職にとって、在宅の現場は、特にリスクが高い場所にもなりうる。
職員を守るため、利用者を選び始めた介護事業者
ならば現在、介護事業者は、こうした危険な現場から、ケアマネや介護職員、ヘルパーをどのように守っているのだろうか。
かつて、私が話を聞いた介護事業所の責任者は「絶対に公にはできない」と前置きした上で、次のように話してくれた。
「うちの介護事業所では、契約前の要介護者やその家族との面談で『心身の状況』『在宅生活での要望』などの外に、『高齢者自身の性格』『家族の人柄』『重度の人格障害か否か』『重度な精神疾患があるか否か』などを、確認している。そして、例えば『かなり要求が強い家族』『上から目線の多い高齢者』などのケースは、契約しないように心がけている。もちろん、ハラスメントや暴力から職員を守るためです」。
なお、契約を断る際には、人手不足などを理由にあげつつ、「いずれ対応できるようになれば、改めて連絡させていただきます」といった物言いをするそうだ。
介護人材不足により需給バランスが崩れていることから、厄介な要介護者やその家族と判断されれば契約してもらえない。仮に契約して介護サービスがスタートしたとしても、状況次第では契約解除されてしまい、介護サービスが受けられなくなることもある―。
既に在宅の現場では、介護サービスを提供する側が、サービスを提供しやすく、比較的安全とおもえる利用者を選び始めているのだ。
より簡単に、より素早く契約解除できる法整備を、すぐにでも!
だが、殺人事件まで発生していることを思えば、そうした対応のみで、ケアマネやヘルパーの安全が担保されているとは言い難い。むしろ、厄介な利用者は、なかなかサービスを受けられない分、たまたま接した介護従事者に対し、積もり積もった苛立ちを強烈にぶつけようとするのではないか。
この危険性を思えば、暴力、暴言、セクハラなどの加害者に対し、より簡単に契約を解除できる法令整備が急がれる。
福祉マインドにあふれた、優しい人が多い介護現場の専門職は、少々のハラスメントぐらいはモノともせず、サービス提供を続けてしまう傾向がある。その志の高さには、頭が下がるばかりだ。だが、そうした善意と福祉マインドに伴う行動が、時には、ハラスメントを助長し、暴力に繋がる危険な芽を育ててしまうこともありうる。
むろん、事業所の都合や職員のわがまま、好みといったことで、契約解除することは、許されてはならない。
だがその一方で、事業者が現場を担うスタッフに危険が及ぶ可能性を察知したなら、ためらわずに契約解除できるような法や仕組みは、すぐにでも整備しなければなるまい。患者に寄り添おうとした医師が銃殺されたり、利用者と向き合おうとしたケアマネが刺殺されそうになったりする事件など、もう2度と起こしてはならないのだから。
「すべての高齢者を支援できない」現実を直視すべき
もう一つ、介護業界で働くすべての人が直視すべきことがある。
「ケアマネ不足も介護職員不足も深刻化し続けている今、もはや全ての高齢者を支援することはできない」という現実である。
さらにいえば、一定程度、介護事業者が利用者を「選別」していくことも当然と考えることこそが、1人でも多くの職員を守ることができ、結果的には、1人でも多くの利用者や家族をケアすることができるという認識に立つべきだ。
公務員ケアマネと、行政指導を兼ねたケアマネジメントを!
ここで気になるのは契約してもらえなかったり、契約解除されたりした高齢者や家族への支援だろう。
その具体策として、私は、改めて措置制度を再興し、公務員ケマネを創設することを提言したい。そして、ハラスメントや暴力・暴言が収まらない高齢者に関しては、行政処分として、指導しながらケアマネジメントしていくべきである。なお、ケアマネに限らず、ヘルパーも公務員化する必要もあるだろう。
もはや「民間介護事業所に処遇困難ケースを対応させることは難しい」と認識しなければ、何も先には進まない。今回の横浜の事件を契機に、措置制度の再興を考えながら、行政指導を兼ねたケアマネジメント、訪問介護サービスの構築を考えるべきであろう。

- 結城康博
- 1969年、北海道生まれ。淑徳大学社会福祉学部卒、法政大学大学院修了(経済学修士、政治学博士)。介護職やケアマネジャー、地域包括支援センター職員として介護系の仕事に10年間従事。現在、淑徳大学教授(社会保障論、社会福祉学)。社会福祉士や介護福祉士、ケアマネジャーの資格も持つ。著書に岩波ブックレット『介護職がいなくなる』など、その他著書多数がある。
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