生成AI×編集部で紡ぐショートストーリー
【ケアマネ小説】離婚のカタチ、結婚の形・6
- 2025/09/11 09:00 配信
- 生成AI×編集部で紡ぐショートストーリー
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文書生成AIを活用し、ケアマネジメント・オンライン編集部が作成した「ケアマネ小説」。今回は、夫との離婚を考えている、施設のケアマネジャーさんのストーリーです。
※【この小説の前編】
【ケアマネ小説】離婚のカタチ、結婚の形・5
オレンジ色の夕日に包まれた談話室にいくと、弘美さんが待っていてくれた。
「悪いわね、無理に引き止めちゃって」
相変わらず、柔和な微笑みで話しかけてくる弘美さん。早春の陽ざしのようなその笑顔が、施設長の刺すようなまなざしで冷え切った私の気持ちを、一瞬で溶かしてくれた。
「まず、弘美さんの問いに答えられないといった言い訳をさせてください」
その一言を免罪符に、夫が不倫していること、そして私は離婚を決意したこと、証拠も準備も整っているのに、なぜか離婚届に自分の名前を書くことができないことを、私は吐露してしまっていた。もちろん、それにつけ込んで、施設長が私との関係を持とうとしていることも。
「そうだったのね。だから琴美さんは、私たちの話にも親身になってくれたのね」
涙ぐみながら何度もうなずく私を、弘美さんは、そっと抱擁してくれた。車いすから伸びあがり、一生懸命、私を包み込んでくれるその優しさが、まずます私の涙をあふれさせた。
「琴美さん。離婚うんぬんはさておいて、まずは、この職場を辞めなさい」
思わぬアドバイスに、慌てて顔を上げる私。なぜ?と目で問うと、弘美さんは表情を引き締めて私に語り掛けた。
「夫婦仲の亀裂につけ込んで、部下を自分の性欲のはけ口にしようとする上司。そんな男の下で働き続けても、あなたの心身は闇に堕ちていくだけ。それだけは、はっきりしているわ」
急に視野が広がった気がした。離婚に気を取られるあまり、悪質なハラスメントを受けている自分を救うことには、思い至らなかった。
「琴美さんのように優秀な人なら、ここじゃなくても、どこでも働けるわよ」
「でも、退職したら、もう弘美さんを支えることができません。いえ、支えるというか、お会いすることができなくなる」
「うれしいこと言ってくれるわね。でも大丈夫。私たちも、今、改めて考え直しているところなのよ。施設を出て、在宅で介護を受けながら生活することを」
「大丈夫なんですか?在宅だと、正さんにもそれなりの負担が生じそうですけど」
「そうね。その点も正と話しました。それでも、正も言ってくれましたよ。『確かに体に負担はかかるかもしれないけど、弘美が施設を出れば、もう離婚しなくても済む』と。それで決めたのよ。施設を出て、離婚は止めようと。琴美さんに相談するつもりだったけど、ごめんね、先に決めちゃった」
それにね、と弘美さんは、ちょっと身を乗り出して、ひそひそ声で話しかけてきました。
「『正と離婚してまで住み続けたい施設か』とも思い直したのよ。臭いもきついし、掃除も十分じゃないし、ご飯もそんなにおいしくないし」
確かに、自分が務める施設でありながら、その環境はかなり悪い。トイレだけでなく廊下にまで尿臭が漂い出ているし、階段の端にも部屋の隅にも、取り残したほこりが湿気を帯びてこびりついてしまっている。
私も、弘美さんの耳の近くに顔を近づけた。そして、まるで母に打ち明け話をする娘のように、弘美さんにささやいた。
「そうですね。正さんもご納得されているのなら、退所し、在宅で生活されるのが、よい選択なのかもしれませんね。それに、お二人だけでなく私にとっても、ここを出るのが正しい選択なのでしょう。アドバイス、ありがとうございます」
私のささやきに、にっこり微笑む弘美さん。
「退職したら、うちに遊びに来てね。琴美さん。待っているわよ」
◇
また、視界がにじんだ。うれし涙を流すなど、何十年ぶりだろう。弘美さんのお誘いに強くうなずきながら、私は、一つの問いを口にした。
「あの…。教えて下さい。私たちは、離婚すべきでしょうか」
その問いを聞いた弘美さんは、じっと私の目を見つめた。その目は、さきほどまでとは打って変わり、少し鋭さすらも帯びて見える。
「琴美さん。あなた、この問題で、夫ときちんと向き合っている?そもそも、話はした?」
思わぬ反問だった。だが、思い返せば、私がやってきたことは、直人と別れる準備だけだった。
「それができていないから、あなた、離婚届に名前を書き込めないのでは?もちろん、夫を許せ、などとは言わない。でも、なぜ、あなたの伴侶が不倫に走ったのか―。そこは、はっきりさせておいた方がいいんじゃない」
確かにその通りだ。それでも、このアドバイスに、どうしても素直になれない自分がいた。追い詰められた獣のようなうめき声で、私は弘美さんに反発した。
「そんなこと、夫の不倫を経験したこともない弘美さんがどうしていえるのよ…」
全く、想定もしていない答えが返ってきた。
「正にだって、他の女の影がちらついたことはありますよ」
「…え?」
「それはありますよ、半世紀近くも夫婦をやっていれば。でもね。私が少しでもあなたに対して誇れることがあるとすれば、そんな疑いを持った時、なにはさておき、まずは正と話をしたこと」
「でも…」
「でも、じゃないわよ!いくら夫婦でも、話さなければ分からないことは、いくらでもあります。当たり前のことでしょ?」
「…はい。仰る通りです」
うなずいた私を見届けて、弘美さんは、再び、にっこりとほほ笑んだ。そして、強く私の手を握った。
「今の旦那さんと話し合うのは、離婚届を突き付けることより、よっぽと大変で怖いことかもしれないけど。勇気を出して、ね」
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