弁護士からの応援寄稿「知っておきたいトラブル事例と対応策」

今、なぜ居宅介護支援事業所が、事業継承を意識しなければならないのか

※今月から外岡潤弁護士に代わり、同じ法律事務所に所属する武田竜太郎弁護士が、この寄稿の執筆を担当します!

「うちの事業所、この先もちゃんと続けられるのかな?」——現場で日々、ご利用者の暮らしを支えるケアマネジャーほど、こうした不安を実感しているのではないでしょうか。今回は、「今、なぜ居宅介護支援事業所が“事業承継(事業のバトンタッチ)”を考えるべきなのか」を、弁護士の立場から整理します。

ケアマネの高齢化と後継者不足の実情

介護労働安定センターの「介護労働実態調査」によれば、昨年度のケアマネジャーの平均年齢が54.3歳。介護関連の労働者の中でも最も高齢でした。さらに、60歳以上のケアマネの割合は31.5%で、前回調査と比べて2.1ポイント増えてました。

ケアマネの高齢化は年々、進行し、そして深刻さを増し続けているのです。

実際、私が話を聞いた、ある地方都市の居宅介護支援事業所では、所属する主任ケアマネ2人が同じ年度に定年退職を迎える予定だとか。そして、後を担う人材も確保できていないため、同事業所の管理者は「このままでは新規の受け入れどころか、今のご利用者を支え続けるのも難しい」と嘆いています。

さらに、その管理者も既に64歳。自身のリタイアも考えなければならない年齢です。それでも「承継を任せられる親族や従業員がいない」ため、自身のリタイアなど、考えることもできないそうです。

そして、介護支援専門員実務研修受講試験(ケアマネ試験)の受験者数も横ばいの状態が続いていることを思えば、今後、居宅介護支援事業所を担える人材が右肩上がりで増えるとも思えません。

先に紹介した管理者が事業所を引き継げる人材を確保でき、無事にリタイアするのは、相当難しい状況です。

そして、継承者が確保できないまま、管理者が働き続けることもできなくなれば、事業所を畳むしか道はなくなります。実際、全国的に、居宅介護支援事業所の数が7年連続で減少しているのは、そうした現実が数字となって表れともいえるでしょう。

現場にとって後継者の不足は、将来ではなく“今、そこにある危機“なのです。

後継者がいても、すぐに引き継げるわけではない

さらにいえば、仮に後継者がいたり、新たに見つかったりしたとしても、明日からすぐに、新しい管理者に事業所を引き継げるものではありません。

引き継ぎの際には、ご利用者やその家族、従業員、地域の医療・介護関係者、そして行政といった多くの関係者との連携や情報共有が欠かせません。当然ながら、相応の時間と労力がかかります。

後継者がいるにしても、いないにしても、事業承継を検討する際には、できるだけ早めに準備に着手しておくことが欠かせないのです。

今回は、事業を継承する上で求められる、基本的な対応と注意すべきポイントを、まとめて紹介します。

「誰が、いつ、どのように説明するか」を明確に!―利用者・ご家族の引き継ぎ

まず、ご利用者やご家族への引き継ぎについて考えます。

ご利用者にとってもご家族にとっても、ケアマネは、介護サービスを支える「安心の土台」です。それだけに、「契約先が変わる」ということは、担当ケアマネやケアプランの変更を伴うかもしれない、極めて大きな出来事です。実際、ある事業所では、事業承継の際の説明が十分に行われず、家族から「契約先が変わるなんて聞いていない」と強い信感を持たれてしまいました。その結果、そのご利用者だけでなく、他のご利用者も離れてしまい、収益が一気に落ち込んでしまいました。

このような事態を防ぐには、ご利用者との間で綿密なコミュニケーションを取り合う必要があります。

具体的には「誰が、いつ、どのように説明するのか」をあらかじめ決めておくべきでしょう。例えば「まずは担当ケアマネが直接説明し、その後に代表者名で正式な通知文を送付。さらに家族懇談会を開催する。その後、新しい事業所の代表者名で署名を送り、新しい担当者が挨拶する」といった明確な段取りがあれば、利用者と家族の不安を和らげられます。

「事業承継」というのは、単なる契約上の変更ではなく、ご利用者にとっては、自身の生活を支える仕組みの一部が変わることですから、丁寧な対応が不可欠です。

業務面も待遇面も「当たり前のことを丁寧に説明」を!-従業員(ケアマネ)

従業員の中でも、特にケアマネジャーは、ご利用者との信頼関係に直結した存在です。給与体系や勤務条件、仕事の方法が急に大きく変わると、それだけでも、離職の引き金になりかねません。

それを防ぐためにも、業務面でも待遇面でも「当たり前のことを丁寧に説明する」姿勢が欠かせません。

実際にある事業所では、承継後、あまり説明もしないまま、介護・会計システムを他社のものに入れ替えたところ、ベテランのケアマネが「新しいシステムは難しくて使えない」と辞めてしまいました。その結果、そのケアマネが担当していたご利用者の半数が流出し、事業の基盤が大きく揺らいでしまいました。

まず、関係性をリスト化-外部の連携先

医療機関や訪問介護・訪問看護、デイサービス、地域包括支援センター、行政などとのつながりは、事業所の目に見えない“資産”です。ある地域では、長年の顔なじみだった病院の相談員が「新しい事業所の担当者が誰か分からない」と困惑し、退院支援が滞る事態もありました。

こうした事態を防ぐためにも、各機関との関係性を、リスト化して残すとともに、事前にあいさつ回りをし、時間をかけて関係を構築していく必要があります。

監査・指導への備えも忘れずに

監査対応も要注意です。「過去の記録がバラバラで、すぐに提出できない」となれば、承継後に指摘を受けるリスクがあります。普段から、適切に記録を取っておくことが承継の際にも役に立ちます。

「うちの事業所、この先も大丈夫だろうか?」という不安は、適切な準備を重ねることで「ここなら安心して続けられる」という確信に変わります。事業承継は「終わりの準備」ではなく、「未来へつなぐ準備」です。

次回以降の記事では、事業承継に向き合ううえで押さえておくべきポイントを整理してお伝えします。

武田竜太郎
おかげさま横浜法律事務所所属の弁護士・公認会計士試験合格者。介護業界に珍しく、大手法律事務所で企業法務・M&Aに従事し、不動産会社での社内弁護士経験や公認会計士試験に合格し監査法人勤務経験を有し、外資系法律事務所での実務を経て、現職。2025年には介護職員初任者研修を修了し、法務・会計の専門知識と現場理解を兼ね備え、介護・福祉事業者の支援に取り組んでいる。

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