生成AI×編集部で紡ぐショートストーリー

【ケアマネ小説】離婚のカタチ、結婚の形・9

文書生成AIを活用し、ケアマネジメント・オンライン編集部が作成した「ケアマネ小説」。今回は、夫と離婚した、施設の元ケアマネジャーさんのストーリーです。

※【この小説の前編】
【ケアマネ小説】離婚のカタチ、結婚の形・8

元夫-秋元直人の通夜は、19時から2時間ほど執り行われるらしい。

私は、通夜が終わる20分ほど前に会場に出向いた。少々、非常識かもしれないが、呼ばれてもいない通夜に、離婚した妻が、焼香のためだけに顔を出すのだ。むしろ、適切なあり方だろう。

場所は、家族葬専用のこじんまりとしたホールだった。幸い、まだ焼香は続いているようだ。会場の前の待機していた係員に最低限の香典を手渡し、最前列に座る元義父母に一礼した上で、参列者の一番後ろに並ぶ。家族葬のはずだが、同僚の銀行員とおぼしき人も10人ほど参列していた。

目を伏せたまま、型どおりの焼香を済ませた。おそらく遺影の直人は、あの子犬のような目で笑ってるのだろう。その笑顔を目の当たりにすれば、取り乱さない自信はなかった。

改めて元義父母に一礼して式場を後にしようとすると、元義母が、来てくれたのね、と声をかけてきた。

元義母との悪い思い出など一つもない。だが、もはや私の人生には関わりのない人だ。いや、そうでなくてはならない。

さらに何かを言いたげな元義母とは視線を合わさず、通り一辺倒のお悔やみを述べ、足早にその場を離れようとした。その時、細身で整った顔立ちの、若い女性が現れた。いや、私の行く先に立ちふさがった。

忘れもしない、その顔。直人の不倫相手の銀行の部下だ。

(関係ない、関係ない。もう私には関係ない。落ち着け、琴美。だまって無視して通り過ぎればいい)

だが、どうやっても眉間には深い縦しわが寄り、手は震える。その女-陽奈も、泣きはらした瞳から、尖った視線をぶつけて来る。そして、口調ばかりはバンカーらしい穏やかさで、私に話かけてきた。

「琴美さんですね。少しだけ、お時間をいただきたいのですが、よろしいでしょうか」

慌てて近寄ってきた元義母へ振り返り、その女は言った。

―お義母さん、大丈夫ですから。

もう、無視して通り過ぎるのは無理だった。陽奈という女の泣きはらした瞳に、憎しみと嘲りを込めた視線を突き刺しながら、私は、お悔みを述べた。

「陽奈さん、でしたっけ。いえ、秋元さんですね、失礼しました。ご主人、ご愁傷様でした。残念ですわね、ご結婚されたばかりというのに」

だが陽奈は、強い侮蔑と敵意を込めた私の言葉と視線にも、一切ひるまない。そして、先ほどと同じような、穏やかな口調で私に告げた。

「いえ。私と秋元さんは結婚していません。一緒に暮らしてもいませんでした」
「ああぁ、同じ職場ですものねえ。離婚後あまりすぐに、だと回りの目がありますものねえ」
「いえ。私と秋元さんは結婚の予定もなければ、お付き合いもしていません」
「…どういうことよ」
「そのあたりの説明も含めて、少し、お時間をいただき、お話をしたいのです」

付き合ってもいないというなら、この女と直人は、体だけの関係だった、ということなのか?脳裏に、直人と陽奈が手を組んでホテルから出て来る写真がよぎった。だが、そんな軽薄な関係を、いまさら私に説明して一体、何になる?この女は、そのふしだらな関係の代償として、慰謝料だって支払っているのだ。

そのモヤモヤした思いを晴らす意味でも、この女の話を聞いてみよう―。そう思い、陽奈に促されるまま、セレモニーホールの空き部屋に入った。

空き部屋に入るなり、陽奈は鞄から封筒を取り出し、私に手渡してきた。

「なんですか、これは」
「不躾なお願いですが、まずは、こちらを読んでください。私が説明するより、この手紙を読んでいただいた方が、事情がわかると思いますので」

封筒には、直人の筆跡で藤原陽奈様へ、と書かれている。顔をしかめながら、私は尋ねた。

「こんなものを私に読ませるって、いったい、どういう嫌がらせよ」
「嫌がらせではありませんし、自慢したいわけでもありません。むしろ、この手紙は私にとって辛い内容しか書かれていません。ただ、事情を知っていただくには、もっとも早道なので…」

そう言って手紙を押し付ける陽奈の目からは、さきほどの尖った光が消え、涙がにじんでいる。

涙に気おされて、私は手紙を開いた。見慣れた直人の文字。だが、少し筆圧が弱いようだ。病気の影響だろうか―。想像することを止め、とりあえず、文字を読み進めた。

藤原陽奈様

お久しぶりです。退職の際、同僚の前では話しくいこともあったので、改めて手紙を書きました。

まずは「不倫相手のフリをしてほしい」という、私のとんでもない依頼を快く引き受けてくれて、本当にありがとうございました。「ラブホテルに一緒に入り、一定時間、部屋に滞在してから、一緒に退室してほしい。当たり前のことですけど、男女の関係は、全く必要ありません」などという、セクハラそのもののような、めちゃくちゃなお願いまで、大して理由も聞かずに引き受けてくれた点、感謝してもしきれません。

私が、非常識極まりないお願いをした理由は、こんなことを相談できるほど信頼する仲間は、藤原さんしかいなかったからでした。

依頼の目的は、先にも少し話した通りです。妻の琴美に嫌ってもらい、離婚してもらうためです。

肺がんで余命2年の宣告を受けてから、私は、その事実を隠した上で、琴美と離婚することばかり考えていました。

余命宣告を受けたと聞けば、琴美は最後の最後まで、私を支えようとするでしょう。そして、私が死んでしまえば、そこから新たな人生を踏み出せなくなってしまうかもしれません。

そのくらい、琴美と私はお互いを想い合っていました。

琴美に新たな人生を踏み出してもらうには、不倫の疑惑を持たせ、離婚してもらうのが、最も手っ取り早い方法と思えたのです。

といっても、もはや私には、実際に不倫するような体力も気力も残されていませんでした。そもそも、する気にもなりませんでした。

どうやっても、琴美以外の人を好きになったり、愛したりすることはできないのです。

だから、できたことといえば、せいぜい怪しげな飲み会を重ねるふりをして夜遅く帰ったり、そっけなくしたりすることくらい。あとは、無駄にスマホを使って、料金を高くしてみたりもしました。

あなたに不倫相手を演じてもらったのも、そんな工夫の一つでした。

ちなみに、藤原さんとの「演技」を思いついたのは、たまたま目にした琴美の通帳に、探偵と思しき相手への多額の振り込みをみつけたことがきっかけでした。自分が浮気調査を依頼した探偵から、不倫の証拠となる写真でも提出されれば、いくら琴美でも離婚を決意するでしょうから。

それにしても、こうした事情を一切聞かず、ラブホテルにまで一緒に来てくれた藤原さんには、本当に深く感謝しています。

ラブホテルでは、あなたが講師を務める新人研修の打ち合わせをしましたよね。

なまめかしい間接照明に照らされたダブルベッドにノートパソコンを置き、バンカーとしての心得や、地域での銀行の存在意義を強調したパワーポイント資料を睨みながら、わかりやすく説明するための工夫を二人で話し合ったのは、ちょっと笑える思い出です。

藤原さんへの感謝の手紙でありながら、琴美の事ばかり書いてしまいましたね。不躾な内容となってしまった点、深くお詫びいたします。

感謝したいことは、まだまだありますが…。ごめんなさい。今の私では、これだけ書くのが精いっぱいでした。

藤原さんが幸多き人生を送ることを願い、最後の挨拶とさせていただきます。

追伸
琴美への慰謝料用としてお渡ししたお金の余りは、今回の迷惑料としてお納めください。

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