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高市新総理誕生!その行動は、ケアマネに、介護に何をもたらすのか?

10月21日、我が国の憲政史上、初めて女性総理が誕生した。その女性-高市早苗氏の手腕は今後の介護施策や、ケアマネジャーを巡る環境にどのような影響を及ぼすのか。今回は、この点を占ってみたい。ただし、現在の政局は、政権与党の枠組みが大きく変わる大変革期で、文字通りの「一寸先は闇」の状態にある。本稿の内容もあくまでも予測でしかないことは断っておく。

介護問題に精通している高市氏

かなり昔の話になるが、私は、高市氏と話したことがある。

1回目は関西系列の介護をテーマとしたテレビ番組。2回目は、高市氏が総務大臣だった時期に行われた「投票環境の向上方策等に関する研究会(第1回)」(2016年12月9日)においてであった。

直接話した高市氏の印象を一言で言えば、「たいへん介護問題に精通している人物」だ。

最近は、親族の介護に携わっているというニュースも見聞きしているから、私が話をしたころより、さらに現場の課題を体感し、理解しているのではないか。

安全保障面での姿勢や憲法・夫婦別姓への向き合い方から、高市氏には「ガチガチの保守」というイメージがつきまとう。加えて、憧れる政治家は「鉄の女」の異名を持つ英国のマーガレット・サッチャー氏だ。リベラルな立場の人なら、高市氏の名前を聞くだけで、拒否反応を示してしまうかもしれない。

だが、こと介護や医療については、十分に精通している。そのように理解しておくべき人物である。

日本維新の会が与党に加わった影響

しかし、いくら高市氏が介護問題に精通しているといっても、本人の意図や想いとは異なる方向の施策を実現せざるを得ないことだってある。

新政権の政策を占う上で、特に注目すべきなのが、新たに連立を組むパートナーとなった日本維新の会が、政策の柱として「社会保障改革」を掲げ、社会保険料の負担軽減を打ち出している点だ。

現役世代の負担軽減に繋がり、物価高に苦しむ中間層にとっては手取りが増える好ましい施策かもしれない。しかし、社会保険料が削減されれば、その分、財源確保が厳しくなり、医療や介護サービスの充実は難しくなる。診療報酬や介護報酬についても、マイナス改定にならずもとも、大幅なプラス改定は見込めなくなる。

日本維新の会が、主に報酬・予算の削減のターゲットとしているのは医療部門であるため、介護への報酬・予算の削減圧は緩和される可能性もある。ただ、それでも「介護報酬の大幅な引き上げ」は、まず期待できないのではないか。

進むと予測される「規制緩和」、その副作用も

もう一つ、新政権で注目しておくべきことがある。

介護業界も含め、あらゆる分野で「規制緩和」が進むだろうということだ。

それだけに、ロビー活動次第では「ケアマネ更新研修廃止」といった流れを作れるチャンスがある。研修義務化を「無駄な規制」といった趣旨でアピールすれば、その実現は十分に可能だ。

その一方、介護施設などの人員配置基準の緩和、兼務職員の拡充、介護事業所の参入規制緩和などの施策が進められるかもしれない。

人員配置基準の規制緩和は労働環境の悪化につながる懸念がある。また、参入規制の障壁が緩和されれば、「競争原理」ばかりが強調され、利潤追求だけを至上とする介護事業者がはびこり、無駄な給付費がかさんでいく恐れもある。

27年改定での実現可能性がさらに高まった「プラン有料化」

続いて、2027年度の介護報酬改定におけるケアマネジャーの処遇改善加算の導入について占ってみる。

この点について、私は「ケアマネ自己負担導入」(ケアプラン有料化)次第と予測している。ケアプラン有料化が実施されれば、それにより得られる財源の一部を活用することで、ケアマネの処遇改善加算を導入することもできるだろう。逆に、ケアプラン有料化が実現されなければ、ケアマネの処遇改善加算も実現しないのではではないか。

そして。ケアプラン有料化は、高市政権誕生によって、実現可能性が高くなったのではないかと考える。福祉を重視した公明党が与党から外れ、社会保険料の削減を掲げる日本維新の会が与党に入ったことで、政権内で「社会保障は『自助』を重視しよう」という姿勢が強くなるからである。

来年度、補助金は支給されるがケアマネは‥‥

なお、来年度には臨時の補助金が支給されることは、ほぼ間違いない。この点については、高市氏が首相就任後の記者会見でも強調していたし、石破内閣の「骨太方針」にも、同様の方針が盛り込まれていた。

しかし、補助金は、おそらく「介護職員処遇改善加算」の枠組みで実施されると思われる。訪問介護には、24年度の介護報酬改定における基本報酬引き下げ分を取り戻す程度の支給はあるだろう。だが、居宅介護支援のケアマネにまで、その恩恵が及ぶとは考えにくい。

今こそ「チャンス」、日本維新の会への積極的な働き掛けも

最後に、私の日本維新の会のイメージを述べておく。この会派は、基本的に介護を含めた社会保障費の増大に厳しい眼差しを向けている。だが、それでも、中には社会保障施策に明るく、ややリベラルな考えを持つ国会議員もいる。そして、医療や介護現場にも精通しており、現場サイドの視点に立っている人物も多数いる。

それだけに今後、介護業界の関係者は、日本維新の会の中の介護通の議員や自由民主党の中のリベラル勢力に積極的に働きかけて、現場の実情に則った施策を促していくことが重要になる。不安要素もあるかもしれないが、今は、制度・政策を大きく転換できるチャンスでもある。業界関係者は、今こそ、積極的に動き、情報発信をしていく必要があるだろう。

結城康博
1969年、北海道生まれ。淑徳大学社会福祉学部卒、法政大学大学院修了(経済学修士、政治学博士)。介護職やケアマネジャー、地域包括支援センター職員として介護系の仕事に10年間従事。現在、淑徳大学教授(社会保障論、社会福祉学)。社会福祉士や介護福祉士、ケアマネジャーの資格も持つ。著書に岩波ブックレット『介護職がいなくなる』など、その他著書多数がある。

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