

小濱道博の介護経営よもやま話
居宅が予防ケアマネジメントを直接担当、厚労省が改革を目指す背景
- 2025/10/30 09:00 配信
- 小濱道博の介護経営よもやま話
- 小濱道博
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次の介護保険制度の改正に向け、厚生労働省は10月9日に開いた社会保障審議会介護保険部会で、居宅のケアマネジャーについて2つの提案をした。
1つは、「居宅介護支援事業所(以下、居宅)が介護予防ケアマネジメントを直接担当できるようにすること」。そしてもう1つは、「介護予防支援の業務プロセスを簡素化すること」である。
この提案は、現場の実情に沿ったものであり、地域包括支援センター(以下、包括)を守るためにも重要な改革であると考える。
地域マネジメントに注力できない包括
包括は、地域の高齢者の相談窓口として、権利擁護や地域づくりにおいて中心的な役割を担うことが期待されている。しかし実際は、要支援者のケアプラン作成などの個別支援業務に多くの時間を割かれ、本来担うべき地域マネジメントに十分注力できない状況にある。
同日配布された厚労省の資料を見ても、介護予防支援と介護予防ケアマネジメントが、包括の業務全体の約3割を占める。その結果として、包括の職員は「相談が多すぎて地域づくりまで手が回らない」「人員が足りず、疲弊している」と訴えているのである。
こうした実態を踏まえれば、居宅が介護予防ケアマネジメントを直接行う仕組みに転換することは、包括の業務負担を減らすための現実的な“一手”といえる。
人手不足と高齢化…ケアマネに懸念も
現在でも、包括から居宅へ業務委託する仕組みはあるが、委託料が低い上、手続きが複雑なため、受託が進んでいない。このため、利用者にとっては「担当者が途中で変わる」「支援が一時的に止まる」といった混乱も起きている。
居宅が最初から直接担当できるようになれば、こうした手間が減り、支援が途切れにくくなる。また、ケアマネが日常的に関わることで、利用者の状態の変化を早くつかみ、柔軟に支援内容を調整できるようになる。これは、介護予防と介護保険サービスをつなぐ意味でも、自然な流れといえるだろう。
ただ、現場のケアマネからは不安の声も上がっている。全国的にケアマネの数は減少傾向にあり、平均年齢も50代後半に達している。次世代の担い手が不足する中で業務を増やすことは、現場の負担を重くするだけではないか、という懸念である。
実際、前回の介護保険制度改正で、居宅介護支援事業所も介護予防支援の指定を受けられるようになったが、現場ではほとんど普及していない。理由は、手続きの煩雑さや委託料の低さにある。
今回の改革を進める上では、居宅が引き受けやすくなる報酬の設定や業務の省力化は不可欠であろう。
シャドーワークの問題をどう解決するか
ケアマネが現場で抱えるもう1つの深刻な課題が、いわゆる「シャドーワーク」である。
これは、代筆、入退院時の世話、死後事務、金銭管理など、本来のケアマネ業務の範囲を超えた対応を求められる状況を指す。厚労省の調査では、「業務外と思われる支援に対応している」と回答したケアマネが7割を超えており、精神的にも時間的にも、ケアマネの大きな負担となっている。
この問題を解決するには、ケアマネが1人で抱え込まず、包括や地域のネットワークで支える体制の構築が必要である。新たに検討されている「第2種社会福祉事業」や成年後見制度との連携も、その具体策として重要である。
厚労省案では、介護予防支援の業務プロセスを見直し、利用者の状態に応じた簡素な手続きに改める方向性も示されている。
これが実現すれば、状態が安定している方などへの支援がより効率的に行えるようになる。さらにICTやAIを活用し、記録の作成や情報共有の自動化も進めば、ケアマネの本来業務である「人と向き合う時間」を取り戻せるであろう。
「仕組みを作っただけ」で終わらせるな
最も重要なのは、この改革を「仕組みを作っただけ」で終わらせないことである。
前回の制度改正で導入された介護予防支援の指定のように、制度を整備するだけでは、現場は動けない。国は報酬による評価、手続きの標準化、自治体への支援、事業者へのICT導入支援と一体的に改革を進める必要がある。また併せて、処遇改善加算の創設など、ケアマネが専門職としての誇りを持ち続けられる環境を整備しなければならない。
居宅と包括が対立関係にあってはいけない。互いの役割を補い合う「チーム」として地域を支える体制を構築する必要がある。これが、今回の改革を真に成功へと導く条件である。
介護保険制度の開始から25年が経ち、地域包括ケアシステムは転換期を迎えている。今回の厚労省の提案は、地域包括ケアシステムを「次のステージ」へと進める試みといえる。
ただし、それを実現するのは制度ではなく、現場である。ケアマネ、包括職員、自治体、事業者がそれぞれの役割を再確認し、支え合いながら改革を進めていくことが重要である。国にはしっかりとその背中を押してほしい。

- 小濱道博
- 小濱介護経営事務所代表。株式会社ベストワン取締役。北海道札幌市出身。全国で介護事業の経営支援、コンプライアンス支援を手掛ける。介護経営セミナーの講師実績は、北海道から沖縄まで全国で年間250件以上。個別相談、個別指導も全国で実施。全国の介護保険課、介護関連の各協会、社会福祉協議会、介護労働安定センター等主催の講演会での講師実績も多数。C-MAS介護事業経営研究会・最高顧問、CS-SR一般社団法人医療介護経営研究会専務理事なども兼ねる。
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