

小濱道博の介護経営よもやま話
処遇改善加算、一人ケアマネ法人に内包する矛盾
- 2026/01/30 09:00 配信
- 小濱道博の介護経営よもやま話
- 小濱道博
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6月から居宅介護支援事業所にも介護職員等処遇改善加算が適用されることとなった。しかし、この新たな制度は、一人ケアマネ法人にとって根本的な矛盾を内包している。
処遇改善加算は本来、労働者の賃金引き上げを目的とする制度であるが、一人ケアマネ法人で実務を担うのは法人代表者自身であり、その立場は労働者ではなく役員である。
役員報酬は法人税法上、事業年度を通じて毎月同じ金額で支払われる「定期同額」でなければ、損金(税務上の経費)として認められない。期中の増額はあくまで役員賞与であり、経費にはならない。
問題を深刻化させる「賃金水準低下禁止」
さらに問題を深刻にしているのが、処遇改善加算における「賃金水準低下禁止」の考え方である。
制度上、処遇改善はその年度内に加算額相当分で実施することが原則であり、実績報告の際、賃金改善額が加算額相当分を下回れば、差額の返還を求められる。一度引き上げた報酬水準を後に引き下げることは、制度上許されない。
初年度にたまった加算額相当分を、翌期の短期間でまとめて支給すれば良いと誤解している人を現場でよく見かける。
例えば、6月から翌年3月までの10カ月間で約9万円の加算収入が生じた場合、これを翌期の数カ月間で一気に支給すると、月額報酬は不自然な水準まで跳ね上がる。その後、加算収入が通常ペースに戻れば報酬を下げることになるが、これは前述した「賃金水準低下」に該当し、制度違反となるのである。
この制度設計は、一人ケアマネ法人を想定していないと言わざるを得ない。
一人ケアマネ法人に残された3つの選択肢
加算額相当分をその年度内に使い切るという原則に忠実に従うのならば、一人ケアマネ法人に残された選択肢は限定的である。
第一の選択肢は、その年度内に「役員賞与」として全額支給する方法である。
役員賞与は税法上、金額と支給日を事前に税務署に届け出ておかなければ、損金として算入できない。仮に約9万円の加算が生じた場合、法人税の負担を除くと、手取り額は6万円前後にとどまるであろう。
効率は悪いが、この方法は制度と税法の双方を確実に遵守できる。翌期以降は、毎月の加算額相当分をその都度支給する体制を整えることで、継続的な対応が可能となる。
第二の選択肢は、配偶者等を事務職員として雇用し、加算額相当分を従業員給与として支給する方法である。
給与であれば、全額損金として算入できる上、全体の税負担を軽くする「所得分散」の効果も期待できる。ただし、実態のある雇用関係が不可欠であり、業務内容や勤務実績を示す証跡(記録など)の整備が前提となる。また、社会保険の加入や家族関係への影響についても慎重な検討が必要である。
第三の選択肢は、「処遇改善加算を算定しない」という判断である。
9万円という金額は決して小さくはないが、税務上の非効率や事務負担、家族雇用のリスクを総合的に考慮すれば、加算を取らないことが合理的な経営判断となる場合もある。
地域によっては、法人代表者は使用人兼役員とはならず、そもそも処遇改善加算の支給対象から外れるケースも多い。この点は、事前に行政への確認が必要である。
全額「役員賞与」で支給した場合に起きること
これら3つの選択肢のうち、加算額相当分を年度内に確実に使い切る方法として最も制度・税務に忠実なのが、役員賞与として全額支給する方法である。
この方法を取り入れた場合、どのような結果をもたらすのか、数値で確認しておく必要がある。
まず法人側である。役員賞与は損金とし算入できないため、9万円は経費にはならないが、法人負担として発生する社会保険料のみ算入可能である。概算で賞与額の15%、1万3500円程度が法定福利費として法人負担となる。ただし、この負担分は賃金改善額と見なされるため、相殺して本人支給額は8万円弱とすべきである。
この8万円弱に対して、法人税、法人住民税、法人事業税を合算した実効税率を約30%とすると、追加で約2万3千円の法人税等が発生する。結果として法人は、9万円の加算収入を得るために、社会保険料と法人税を含む3万6千円ほどの持ち出しを強いられる。
次に個人側である。本人負担の社会保険料、所得税、住民税などで1万8千円程度の税負担が生じるため、法人代表者の最終的な手取り額は約5万8千円前後となる。
一人ケアマネ法人において処遇改善加算をどう扱うかを考える際、このシミュレーションは重要な判断材料となる。
役員報酬とするか、別の方法を検討するか、あるいは処遇改善加算を算定しないか。いずれを選ぶにしても、「全額を役員賞与で支給した場合、こうした結果になる」という事実を理解した上で判断することが不可欠である。
なお、この問題は昨年12月から半年間の介護支援パッケージ補助金(1万円相当)においても同様に発生する。
制度の限界と今後の課題
一人ケアマネ法人にとって、処遇改善加算は極めて使いづらい制度である。一人ケアマネ法人の経営者は当面の間、この制度の限界を正確に理解した上で、最もリスクの少ない選択をする冷静な判断が求められる。
そもそも、労働者の賃上げを前提とするこの制度と、役員報酬の定期同額要件という税法上の枠組みは、本質的にかみ合っていない。年間10万円を手にするために、非効率な税負担や無理な運営を強いられる現状は、制度設計上の課題といえる。
この問題は個々の事業所の工夫で解決できるものではない。一人ケアマネ法人を前提とした特例的な取り扱いや、処遇改善の方法に関する柔軟な制度設計が、今後の報酬改定や制度の見直しの中で検討されるべきである。

- 小濱道博
- 小濱介護経営事務所代表。株式会社ベストワン取締役。北海道札幌市出身。全国で介護事業の経営支援、コンプライアンス支援を手掛ける。介護経営セミナーの講師実績は、北海道から沖縄まで全国で年間250件以上。個別相談、個別指導も全国で実施。全国の介護保険課、介護関連の各協会、社会福祉協議会、介護労働安定センター等主催の講演会での講師実績も多数。C-MAS介護事業経営研究会・最高顧問、CS-SR一般社団法人医療介護経営研究会専務理事なども兼ねる。
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