

小濱道博の介護経営よもやま話
ケアマネ処遇改善加算が突きつける経営の転換点
- 2026/02/27 09:00 配信
- 小濱道博の介護経営よもやま話
- 小濱道博
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居宅介護支援事業所にとって、昨今の制度改正やICT化の波は、期待よりもむしろ重圧と感じることの方が多いのだろうか。
ケアマネジャーの本分は利用者や家族との対話であり、複雑な生活課題の解決にある。しかし現実は、膨大な書類作成と電話連絡、そして毎月の給付管理業務に忙殺されている。
国は「生産性向上」を掲げ、処遇改善加算の要件厳格化やケアプランデータ連携システムの導入を迫ってくるが、日々の業務を回すだけで精一杯の現場からすれば、それは新たな負担の押し付けにしか見えないのかもしれない。
加算は「選ばれる事業所になるための資金」
いま居宅介護支援事業所が直面している大きな変化は、6月の臨時改定による処遇改善加算の拡充と、それに伴う職場環境改善要件の強化である。具体的には、委員会の設置や業務の見える化、そしてICT機器の活用などが要件として組み込まれている。
これからはより実質的な「生産性向上の取り組み」が求められる。これを単なる「事務作業の増加」と捉えるか、「経営体質を変えるチャンス」と捉えるかで、事業所の未来は大きく変わる。
例えば、ある事業所では、処遇改善加算の取得を目指して業務の棚卸しを行ったところ、ケアマネジャーが本来行うべき相談業務と、事務職員でも代行可能な入力・請求業務が混然一体となっている実態が浮き彫りになった。
そこで、事務職員に一部の給付管理業務とプランの交付業務を移行し、役割分担を明確にした。その結果、ケアマネジャーは専門業務に集中できる時間が増え、事業所全体の対応件数が増加したことで、職員の賃上げに成功した。
加算を取るためにただ書類を作るのではなく、働きやすい職場環境をつくるために業務を再構築することで、職員の給与アップや定着率の向上が実現するのである。
処遇改善加算は、もはや単なる補助金ではなく、「選ばれる事業所になるための投資資金」としての性格を強めていることを理解する必要がある。
ケアプランデータ連携システムという“黒船”
多くのケアマネジャーが頭を抱えているのが、居宅の現場には“黒船”ともいえるケアプランデータ連携システムの導入であろう。
毎月サービス事業所に送る提供票を、紙やファクスではなくデータで送受信するこの仕組みは、理屈では便利だと分かっていても、現場には根強い抵抗感がある。「相手の事業所が導入していない」「ファクスの方が確実だ」「設定が面倒くさい」といった声はもっともである。
しかし、先行して導入した事業所の成果報告を見ると、その効果は「劇的」と言わざるを得ない。
ある居宅介護支援事業所の事例では、ケアプランデータ連携システムを地域ぐるみで導入し、データ連携を一斉に進めた結果、大幅に紙ベースの提供票が減少し、ファクスの送信にかかる時間が半減したという。
特筆すべきは、その浮いた時間を活用することで、ケアマネジャー1人あたりの担当件数を35件から43件へと大幅に増やし、職員の平均年収を近隣の相場を上回る水準まで引き上げた点である。
この事例は、ICT化の目的が「楽をすること」ではなく、「新たな価値を生むこと」にあるという点を示唆している。
専門職であるケアマネジャーが、紙の印刷やファクスの送信といった「誰がやっても変わらない作業」に時間を費やすのは経営資源の浪費であるといえる。
ケアプランデータ連携システムの導入当初は、確かに相手先との調整などの手間が発生する。しかし、一度軌道に乗れば、毎月末に訪れるあの殺人的な事務作業から解放される。そして、空いた時間で、利用者宅への訪問回数を増やしたり、困難事例の検討に充てたりすることができるのである。
ケアマネジャーの賃上げ補助金の需給要件の一つにもなり、他の多くサービス事業者が導入を進めている今、この波に乗らない手はないだろう。
事務職員との協働によるタスクシフトの可能性
ICT化と並んで重要なのが業務の分担、いわゆる「タスクシフト」である。
ケアマネジャーは責任感が強く、一人で全ての業務を抱え込みがちである。しかし、アセスメントやモニタリングといった核心部分は譲れないにしても、電話の一次対応、書類のファイリング、実績の入力確認などは、必ずしもケアマネジャー資格が必須ではない。
タスクシフトに成功している事業所では、事務職員を「ケアマネジャーの助手」として明確に位置づけている。単なる雑用係ではなく、ケアマネジメントのプロセスを理解してもらった上で、定型業務を任せるのである。
ある事業所では、事務職員に介護保険の基礎知識を教える研修を行った上で、ケアマネジャーとペアを組ませ、書類作成の補助や関係機関との連絡調整の一部を担わせている。これにより、ケアマネジャーは「考える仕事」に特化でき、精神的なゆとりを持つことにつながったという。
また最新の事例では、AIによる音声入力や要約ツールを活用し、記録業務の時間を短縮する試みも始まっている。
高齢のケアマネジャーにとってキーボード入力は大きな負担だが、スマートフォンやボイスレコーダーに向かって話すだけで記録の下書きができるのであれば、そのハードルはぐっと下がる。最新技術を毛嫌いせず、自分たちの「不得意」を補うために活用する柔軟な姿勢が、これからの事業所運営には不可欠である。
アナログの価値を守るためのデジタル化
最後に強調したいのは、これら全ての効率化は、決して「ケアの質」を犠牲にするものではないということだ。むしろ利用者と顔を合わせ、じっくりと話を聞くという、ケアマネジメントにおける最も大切な「アナログの時間」を守るためにこそ、デジタルが必要なのである。
ファクスの送信完了を待ったり、同じ内容を何度も手書きで転記したりする時間は、利用者の役には立っていない。その無駄を削ぎ落とし、生まれた時間を人に向ける。それが本来の生産性向上である。
まずは、手元の紙を1枚減らし、ファクスをデータ送信に変えてみる。そんな小さな一歩から、事業所の変革を始めてみてはいかがだろうか。

- 小濱道博
- 小濱介護経営事務所代表。株式会社ベストワン取締役。北海道札幌市出身。全国で介護事業の経営支援、コンプライアンス支援を手掛ける。介護経営セミナーの講師実績は、北海道から沖縄まで全国で年間250件以上。個別相談、個別指導も全国で実施。全国の介護保険課、介護関連の各協会、社会福祉協議会、介護労働安定センター等主催の講演会での講師実績も多数。C-MAS介護事業経営研究会・最高顧問、CS-SR一般社団法人医療介護経営研究会専務理事なども兼ねる。
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