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弁護士からの応援寄稿「知っておきたいトラブル事例と対応策」

「このご利用者、もう無理!!」…契約を解除できるか?(前編)

訪問介護やデイサービスの事業所と比べ、在宅ケアマネジャーは、ご利用者やその家族(以下「ご利用者等」)と、より深く関わることになります。そのため、ご利用者等との関係で多少嫌なことや怖い思いをしても、ケアマネジメント契約をこちらから切るということは抵抗がある…という方も多いのではないでしょうか。

しかし、要求内容があまりに常軌を逸脱したり、恫喝や過度な叱責が続いたりするようでは、どんなベテランのケアマネも精神的に追い込まれてしまいますね。こういう状況であれば、法的には、事業所からの契約解除も当然可能です。一般的な契約書には、「利用者が著しく信頼関係を破壊する行為をしたとき」あるいは「背信行為をしたとき」に契約は解除できる、といった規定が盛り込まれているはずです。

想定ケース:横柄でありがた迷惑なご家族

では具体的にいかなる場合に解除に踏み切ることができるのでしょうか。事例に基づき、三択の問題形式でみていきましょう。

ご利用者のBさん(84歳女性)は息子Aさん(独身)と10数年、二人暮らしをしている。Aさんは仕事もせず、Bさんの年金で生活している。

Bさんの担当であるケアマネは、訪問するたびにAさんから「声のトーンが暗い」「返事が聞こえない」など、何かと文句を言われ、二言目には「あなたたちはレベルが低いから、自分が社会人としての

あり方を指導してやっているんだ。感謝しろ」などと上から目線で言われている。

ケアマネはAさんの顔を見ると動悸や息切れがするようになった。訪問がある日は一日中、憂鬱だ。「このままではうつ病になってしまう」。ケアマネはやむなく事務が所属する事業所に相談した。

この悲痛な訴えを受けた事業所は、どう対応すべきか―。なお、利用契約書には「利用者が著しく信頼関係を破壊する行為をしたときは、事業所は本契約を解除することができます」と書かれている。

選択肢1.担当ケアマネが事業所を辞めたことにして、別の担当者を付ける。
選択肢2.まずAさんと面談し、こちらが困っていることを伝え改善を求める。改善がみられないようであれば解除に踏み切る。
選択肢3. Aさんの言動は明らかにカスタマーハラスメントに当たり、身内であるケアマネを守らなければならないので、契約解除通知を送る。

妥当な判断は「改善を求めた上で、ダメなら解除」

いかがでしょうか。絶対の正解は存在しませんが、本稿では以下の理由から「2」を正しい選択とします。

1は実際によく見られる危機回避の手法なのですが、もし辞めていないことがばれてしまうと、より深刻なトラブルを招く恐れがあります。また、後任のケアマネも同じ被害に遭うことも危惧されます。基本的に利用者等との間の問題は、先送りや回避を試みるのではなく、正面から解決に向け、当たっていくことが重要です。

3も理論上不可能ではありません。実際の相談などでもよくある解決への道筋の一つです。ただ、最後の手段である解除を何の前触れもなく切り出すと相手も驚き、新たなトラブルに発展しやすいというリスクがあります。また、解除の根拠となる「著しく信頼関係を破壊する行為」が認められるか否かについては最終的には裁判所で判断されることになりますが、判断はケースバイケースであり、問答無用で解除できると決めてかかることにもリスクが伴います。

解除の有効性を争った判例―1600万円の賠償を求める家族!

ここで、解除の有効性が争われた裁判事例をご紹介します。

平成27年8月6日東京地裁判決

利用者家族のヘルパーに対する暴力行為により、サービスを継続し難い事由があるとしてヘルパーステーションが、契約を解除し、サービスを停止した。

ところが、利用者家族は、解除には理由がないと主張。仮に理由があったとしても本件解除は無催告であり、又は予告期間がないからサービスの停止は違法と指摘した。さらにサービス停止の影響で利用者が3週間後に脳出血を発症し死亡したと訴え、ステーションに損害賠償1600万円を求めた。

家族は、解除と死亡との間に因果関係がないとしてもサービスの停止により精神的苦痛を被ったとし、慰謝料300万円を予備的に請求してもいる。

解除にまつわるトラブルは、ここまで大ごとになってしまうのかと思い、尻込みしてしまった方もおられるかもしれません。ですが、安心してください。この裁判で家族の請求はすべて棄却(否定)されました。

「正当な理由」があったから、ヘルパーに塩を撒いた?!

その主な理由は以下のとおりです。

事業所は、概ね次の文面で解除通知を送りました。

「平成24年6月30日、利用者様の御子息であり,上記契約における利用者様の代理人でもある息子様より、弊社所属のサービス提供責任者に対し、塩を投げつけるという暴力行為を行ったことにより、当該社員は深刻な恐怖感を覚え身の危険を感じている状況です。また,弊社社員全体も同様の恐怖感を持っています」

「上記の貴殿の行為は、訪問介護契約書に記載の『利用者またはその家族が事業者やサービス従事者に対して,この契約を継続しがたいほどの背信行為を行った場合』に当たるものですので、本契約を終了いたしますので,本書をもって通知する次第です」

塩を投げつけるという行為以外にも、職員に対し1時間近く怒鳴り続けるといった行為がありました。

これに対し、家族は「ヘルパーに塩を撒いたのは事実だが、それはヘルパーが断っても自宅を訪問し、自分に身体をすり寄せる行為をしてきたことから不快に感じたためであり、正当な理由がある」などと反論しました。

裁判所が解除は妥当と判断した理由は…

しかし、裁判所は次のように見解を述べ、解除はもっともであると結論づけました。

「ヘルパー等は、それまでも原告(家族)に度々怒鳴りつけるなどされていたことや、怒鳴る原告を諌めようと声をかけていることからすれば、ヘルパーが上記のような(身体をすり寄せる)行為に及ぶことは考えにくく、…塩を投げつけた行為はヘルパーに対する有形力の行使であり、暴行と言わざるを得ない」

「もともと原告には、介護サービスを受ける家族として、サービスへの協力や対応に問題があって被告やそのヘルパー等が対応に苦慮しその信頼関係が失われつつあったところ、さらに原告が上記の暴力行為に及んだものであり、このような経過に照らせば被告が本件契約によるサービスの提供を継続することは困難であり、本件契約を継続し難いほどの背信事由があったものとして,本件契約に解除事由があるとした被告の判断は相当であったものと認められる」

「ヘルパーに塩を撒く」行為は一般に信じ難い非常識的なもの。「人の身体に対する不法な有形力の行使」であり、いわゆる暴行罪に該当する犯罪行為です。しかし、そこまでエスカレートせずとも、裁判所が認定しているように「信頼関係が失われ」「サービスの提供を継続することは困難」であるといえるだけの事情が認められれば、事業所からの解除は有効と結論付けられるのです。

長くなりましたので、事例解説の続きと実践的な方法は次回とします。お楽しみに。

外岡潤
1980年札幌生れ。99年東京大学文科Ⅰ類入学、2005年に司法試験合格。07年弁護士登録(第二東京弁護士会)後、ブレークモア法律事務所、城山総合法律事務所を経て、09年4月法律事務所おかげさまを設立。09年8月ホームヘルパー2級取得。09年10月視覚障害者移動介護従業者(視覚ガイドヘルパー)取得。セミナー・講演などで専門的な話を分かりやすく、楽しく説明することを得意とし、特に独自の経験と論理に基づいた介護トラブルの回避に関するセミナーには定評がある。主な著書は『介護トラブル相談必携』(民事法研究会)、『介護トラブル対処法~外岡流3つの掟~』(メディカ出版)、『介護職員のためのリスクマネジメント養成講座』(レクシスネクシス・ジャパン)など。「弁護士 外岡 潤が教える介護トラブル解決チャンネル」も、運営中。

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