弁護士からの応援寄稿「知っておきたいトラブル事例と対応策」

経済的に困窮するご利用者宅の生活支援・その2

先に配信した「経済的に困窮するご利用者宅の生活支援」では、生活が困難なご利用者に生活保護受給の支援や措置処分としての施設入所の方法などを解説しました。今回も経済的に困窮したご利用者の支援についてみていきましょう。

莫大な借金と深刻な病を抱え、家を追い出されそうになっている利用者

相談者:40歳代、ケアマネ(居宅介護支援事業所勤務、2年目)
ご利用者Aさん:80代男性、要介護3。高血圧、鬱病、てんかん発作、大動脈解離 軽度の認知症。過去にアルコール中毒の既往歴があります。
妻子はいるが20年以上前に別離し音信不通。集合住宅に独居。外出は滅多にせず、交友関係も無い。
収入は厚生年金(月額7万円)のみ。
サービス利用状況:福祉用具貸与、訪問介護、居宅療養管理指導。介護保険外で訪問診療

ご利用者は地域包括支援センターから連絡を受け、担当した方でした。当初から精神疾患(鬱病)の疑いがあったので、精神科受診を勧めつつ多職種連携のチームで連携し、在宅で支援する態勢を整えました。

ところが、関わっていく過程で、一千万円以上の返済不能額の債務が発覚しました。ギャンブルや生活費に使ったとのことでした。

そして債務が発覚した同じ時期、Aさんはてんかん発作を発症し室内で転倒しました。発見まで時間がかかったことで、顔、胸、腹部、膝複数ヶ所に褥瘡が発症し、入院と皮膚移植手術を余儀なくされました。

この入院で費用がかさんだことにより、家賃が滞り、ついは不動産管理会社から退去勧告を受ける状況になりました。Aさんは現在も入院中ですが、数週間後には退院する見込みです。しかし、ちょうど新型コロナ感染が拡大しており面会もままならない状況です。私の方から、郵便受けにたまった督促状などを病室まで持参したり転送したりしていますが、Aさんは携帯を持っていないため連絡が取れません。

鬱病とてんかん、さらには褥瘡と深刻な症状に見舞われたあげく、住む場所すら失おうとしているAさん。ご自身の人生といはいえ、傍から見ていてあまりに気の毒に思います。ケアマネの立場では何をどこまで支援できるものでしょうか。あるいは、ケアマネとしての分をわきまえ、その業務範囲のみの支援に徹するよう、自分の気持ちを抑えるべきなのでしょうか。

自己破産をはじめ、対応してくれる弁護士に繋げましょう!

ご相談者のお気持ちは、よく理解できますし、そうしたお気持ちを抱かれること自体は、とても尊いことです。ただ、ご自身でもご認識されているように、ご相談者はケアマネとしてご利用者に関与されているお立場です。Aさんの生活のすべての立て直しにまで深く関わることはできません。

ただ、ケアマネとしてできることもあります。まずは第26回でも登場した、「法テラス」(日本司法支援センター)を紹介すると良いでしょう。全国どこでも法的トラブルを解決するための情報やサービスを受けられる社会の実現という理念の下に設立された法務省の関連機関です。相談料はもちろん、弁護士に手続を委任しても費用は発生しませんので、気軽に利用することができます。

もっともAさんは入院中であり自分では動けない状況です。ですので、ご自身で法テラスに連絡し、出張相談を依頼するという方法もあります。

その際、病状や退院できない理由、ご本人の状態等を尋ねられますが、ケアマネの立場では代理人として認められないかもしれません。その場合は地域包括支援センターや役所の高齢者支援課など、人権保障の部署に連絡し今後の対応を委ねましょう。

もちろん、これらの行動はケアマネとしての義務ではありません。ですので、「自分はそこまで関われない」と思われる場合は無理せず最初から役所等に繋げて構いません。

知っておきたい自己破産手続のポイント

ケアマネは法律の専門家ではないので詳細を正確に把握する必要はないのですが、本件のように借金が多く返済不能な状態に陥っている場合、効果的であり唯一といってよい方法ですので知っておいて損はありません。

自己破産とは、「裁判所で全ての債務を免除してもらう手続」です。借金過多により支払いが不可能であると裁判所に認められ、免責が許可されると、税金などを除くすべての債務を支払う必要がなくなります。つまり帳消しになるのです。

もっとも、最低限の財産(20万円以下の預貯金など)を超えるものは全てお金に換えて債権者に分配し、手放さなければなりません。

当然ながら、破産を認めてもらうには、その人の全財産や収支状況をくわしく報告しなければなりません。具体的には本人名義の通帳や生命保険など、関連しそうな書類を集める必要があります。その作業が大変かと思いますが、ケアマネ自身が直接、そうした書類を探し回ることはしない方がよいでしょう。

「自宅は出なければならない?!」は誤解だが

よくある誤解として「自己破産すると自宅を出なければならない」があります。

改めて強調しておきますが、入居者が自己破産した場合でも、そのことをもって賃貸部屋の退去は命じられず、住み続けることは可能です。

一方、家賃を滞納し続ければ、契約上退去事由に該当するため退去を求められてしまいます。しかし、日本の法律では居住者は手厚く保護されており、1,2回滞納した程度ですぐ追い出されることはありません。さらには、退去させる方も裁判をしなければならないので最低でも数か月はかかります。その間に弁護士が代理人として就き、賃貸の点でも交渉をして貰えれば安心です。

もし今の部屋では家賃が高すぎ生活が成り立たないといった事情があれば、生活保護を申請する必要があるでしょう。自己破産をしても生活保護はその前後で利用できるので、弁護士に進めてもらうか、生活保護課に繋げることになります。

外岡潤
1980年札幌生まれ。99年東京大学文科Ⅰ類入学、2005年に司法試験合格。07年弁護士登録(第二東京弁護士会)後、ブレークモア法律事務所、城山総合法律事務所を経て、09年4月法律事務所おかげさまを設立。09年8月ホームヘルパー2級取得。09年10月視覚障害者移動介護従業者(視覚ガイドヘルパー)取得。セミナー・講演などで専門的な話を分かりやすく、楽しく説明することを得意とし、特に独自の経験と論理に基づいた介護トラブルの回避に関するセミナーには定評がある。主な著書は『介護トラブル相談必携』(民事法研究会)、『介護トラブル対処法~外岡流3つの掟~』(メディカ出版)、『介護職員のためのリスクマネジメント養成講座』(レクシスネクシス・ジャパン)など。「弁護士 外岡 潤が教える介護トラブル解決チャンネル」も、運営中。

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