有識者コラム苦手意識にサヨナラ!ICT化を推進できるケアマネジャーになろう 【後編】
科学的介護情報システム(LIFE)の運用開始もあり、介護現場のICT化は待ったなし。当然、ケアマネジャーもこの流れと無縁ではいられませんが、何から着手すべきか迷う方も多いのではないでしょうか。そこで、ケアマネジメントを専門に実践・研究を重ねるとともに、政府のさまざまな委員会で委員を歴任してきた、国際医療福祉大学大学院の石山麗子教授にインタビュー。後編となる今回は、LIFEやAIケアプランといった注目のキーワードについて、ケアマネジャーとして知っておきたいポイントを伺います。
LIFE本格稼働に伴い「データを活用できるケアマネ」の需要増!
2021年度介護報酬改定を機に本格稼働したLIFEについて、「施設・通所サービスが中心だからケアマネジャーには関係ない」と考えている方がいるかもしれません。しかし、その認識は危ういといえるでしょう。2024年度改定に向けて居宅介護支援でもLIFEの活用を求める政府案が打ち出されていますし、仮にそうでなくても各事業所がLIFEに対応していく中、連携の要であるケアマネジャーが手をこまねいているわけにはいきません。
ただし、LIFEは情報を格納・分析・フィードバックするツールに過ぎず、エビデンスに基づく「科学的介護」こそ私たちが目指すべきものです。「科学」であるためには再現可能性が重要で、その基盤となるデータの正確性が求められます。だからこそケアマネジャーには、精度の高いデータを収集できる環境を整えることが役割の一つとして求められます。例えば、体重測定一つを取っても、自宅で風呂上りに測るのと、施設で着衣のまま測るのでは、かなり結果が変わってしまいます。その違いを考慮せずに入力したとき、果たして正確なフィードバックが得られるでしょうか。
現在、LIFEは十分なデータを収集する「助走段階」にあるといえ、本格的に個々のケアに生かすフェーズはもう少し先になりそうです。ぜひ、それまでの期間をLIFE活用に必要なスキルの習得に充ててください。例えば、得られたフィードバックを解釈したり、ケアプランに反映したりする力は、これから確実に必要となるでしょう。数年後に「データを活用できるケアマネジャー」の需要が増すことを見越して、今から学び始めることをお勧めします。
ケアマネジャーとAIが「協力」する未来は遠くない
もう一つ、私が厚生労働省の研究に携わっているAIケアプランについてもお話ししましょう。AIがケアプランを考案してくれるにしても、そのケアプランがどういうわけで提示されたのかをイメージできなければ、ケアマネジャーは利用者に説明責任を果たせません。そこで、近年では結論を導き出した根拠まで示すことができる「ホワイトボックス型AI」を用いた研究が進められています。いわばブラックボックス的なケアプランではなく、誰もが根拠を説明できるガラス張りのケアプランを作成してくれるわけです。
また、AIケアプランを機能させるためには、AIが学習するデータの標準化も必要です。その部分では、2024年からケアマネジャーの法定研修にも導入された「適切なケアマネジメント手法」が活用されています。私も開発に携わり、ケアマネジメントの手法を「体系的な知」としてまとめたものです。
ケアマネジャーの業務特性にマッチしたシステムが完成すれば、AIと一緒に働くことが当たり前の時代に突入するでしょう。それをいたずらに恐れる必要はなく、「業務をサポートしてくれる力強い味方が増える」と考えてみてはどうでしょうか。皆さんは人間として適切なケアマネジメント手法をしっかりと学び、「AIを使いこなす」くらいの心持ちでいればよいのだろうと思います。
「本当に大切なこと」へ全力投球するために、ICTの力を活用しよう
私はケアマネジメントをテーマに研究を重ねてきましたが、最近になってケアマネジャーの重要性をあらためて深く実感するようになりました。相手の感情の機微をとらえて関係をつないでいくという、まさに人間にしかできない仕事――。それこそケアマネジャーならではの役割であり、効率性を求められるような性質の仕事ではありません。だからこそ、可能な場面ではICTの力を活用し、ケアマネジャーの皆さまには「効率化できない本当に大切なこと」にもっと時間を割いてほしいのです。それを実現できる未来はもうすぐそこまで来ています。迷うことなく前進し、人々の心を紡ぐハブとなるケアマネジャーの役割を果たしていきましょう。
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- 石山 麗子(いしやま・れいこ)
- 国際医療福祉大学大学院 医療福祉経営専攻 先進的ケア・ネットワーク開発研究分野責任者/教授
1992年、武蔵野音楽大学を卒業後、知的障害児入所施設に入職し、音楽療法を実践。障害者職業センターの障害者職業カウンセラーの経験を経て、2001年に介護支援専門員資格取得。2005年、東京海上日動ベターライフサービス株式会社に入社し、シニアケアマネジャーとして140人のケアマネジャーを統括。2013年、国際医療福祉大学大学院博士課程修了。2015年、日本介護支援専門員協会常任理事。2016年、厚生労働省老健局振興課介護支援専門官。2018年より現職。
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