

結城教授の深掘り!介護保険
※この記事は 2020年9月10日 に書かれたもので、内容が古い可能性がありますのでご注意ください。
深刻化するヤングケアラー問題、国とケアマネがやるべきことは
- 2020/09/10 09:00 配信
- 結城教授の深掘り!介護保険
- 結城康博
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ケアマネジメント・オンラインと毎日新聞社の共同調査で、ケアマネジャーの6人に1人に相当する16.5%が、「介護」を担う子どもがいるケースを担当していることが分かった。さらに、毎日新聞社の推計分析では、15歳から19歳に限っても、全国に約3万7100人のヤングケアラーがいるとする結果が示された。
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読者の皆さんも、孫などが家族介護者の一翼を担っている光景を見かけることがあるのではないか。もしかしたら、祖父母だけなく親などの介護・看護も担っている若者を目にした人もいるかもしれない。
背景にある晩産化
高齢者分野においても「ヤングケアラー」問題が深刻化しつつあるのは間違いない。その背景には、晩産化があると考えられる。
厚生労働省の資料によれば、母親が35歳以上で子を産む割合が2000年以降全体のうち1割を超え、最近では約3割を占める水準にまで迫っている。=グラフ1=

その結果、「中学生や高校生の母親で年齢は50歳以上」という人が珍しくなくなった。さらに言えば、「中学生や高校生の祖父母が80歳以上」ということも、当たり前に起こり得る状況となっている。
50歳といえば、慢性疾患やがんなど、生活の質を大きく左右する病気の罹患が現実味を帯びる年齢だ。80歳ともなれば、例え病気とは無縁でも、加齢によって心身が衰え、介護が必要になる人がどんどん増える。
つまり、「親が50歳以上で祖父母が80歳以上」という家族構成は、「家族の中で、家族をケアできるのは中学生か高校生だけ」という状況が生じても、なんの不思議もない状況なのだ。
離婚も問題を深刻化させている?
もう一つ、ヤングケアラー問題を深刻化させているかもしれない要因として挙げられるのが離婚だ。
総離婚件数に占める親権に関わる離婚件数は、2000年以降減少傾向となり、2014年以降は約12万件前後で推移している。しかし、離婚件数が横ばいでも、出生数は毎年減り続けている。=グラフ2=

その結果、母子家庭もしくは父子家庭の割合が年々、高くなっていると推察されるのだ。
母子家庭や父子家庭では家事の担い手が少ない。その結果、中高生・高校生が家事や祖父母の介護などを担当しなければならない可能性が高くなる。
実際、ケアマネジメント・オンラインと毎日新聞の調査によれば、家事や家族の介護などに取り組むため、進学をあきらめたり、就職先が限定されたりするヤングケアラーが一定数いることも示されている。
ケアラー支援の理念を踏まえた介護保険制度を
こうしたヤングケアラーを支援するための方法としては、訪問介護の「生活援助」を活用することなどが考えられる。ただし、ケアマネなら誰でも知っていることだが、訪問介護の「生活援助」は、同居家族がいると、かなり利用しにくい。
こうした状況を打破するためには、介護保険の理念を、要介護者及び同居家族支援といった方向に変革していく必要がある。つまり、「ケアラー支援」の理念を踏まえた介護保険にしていくのである。
その上で、「生活援助」に関する規制の緩和を検討すべきだろう。政府が今後も介護離職防止という政策を掲げ続けるなら、まずはこの点の緩和に踏み出すべきだ。
具体的には、次のような緩和策が必要だ。
- 同居家族の有無に関わらず、「生活援助」は利用できる
- 同居家族が働いていたり、勉学していたりする学生がいるならば、ヘルパーの食事づくりにおいても、家族の分も調理可能とする
- 必要ならば、要介護者と同居している家族の部屋や洗濯なども可能とする
ケアマネジメントにもケアラー支援の視点が必要
「生活援助」の規制を緩和すると、無駄なサービス給付を増大させるという批判もある。
この点については、介護離職防止やヤングケアラー対策を前提としたケアマネジメント技法を確立すれば問題はないはずだ。その実現のためには、例えばアセスメントのツールに、ケアラー支援の視点を盛り込んでいく必要がある。
このようなケアラー支援に基づくアセスメントを実現した上で、「生活援助」の一回のケア時間を90分以上とする改正や、介護報酬の単価を引き上げも検討すべきではないか。同居家族の生活支援をするには、一定の時間と労力がかかるからだ。
なお、「生活援助」の報酬単価が上がり、ヘルパーの稼働回数も増えていけば、ヘルパーの賃金も向上する。そうなれば有効求人倍率が約15倍という、恐ろしいほどの人手不足も少しは解消に向かうはずだ。
問題解決へ、ケアマネも積極的な発信を
最後に、介護保険の理念をケアラー支援に傾けるためには、要介護者とその家族の問題をじかに感じているケアマネが、「ヤングケアラー問題」や「介護離職防止」といった問題にさらに関心を寄せ、社会に発信していくことが有効だ。
現場のケアマネは高齢者だけでなく、次代を担う若者の現実にも、ぜひ目をむけてほしい。そして、その問題に関心を持ち、積極的に発信してほしい。

- 結城康博
- 1969年、北海道生まれ。淑徳大学社会福祉学部卒、法政大学大学院修了(経済学修士、政治学博士)。介護職やケアマネジャー、地域包括支援センター職員として介護系の仕事に10年間従事。現在、淑徳大学教授(社会保障論、社会福祉学)。社会福祉士や介護福祉士、ケアマネジャーの資格も持つ。著書に岩波ブックレット『介護職がいなくなる』など、その他著書多数がある。
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