

結城教授の深掘り!介護保険
オンラインモニタリングが導く、ケアマネにとっての恐るべき未来
- 2024/03/26 09:00 配信
- 結城教授の深掘り!介護保険
- 結城康博
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2024年度の介護報酬改定(24改定)に伴い、導入される「オンラインモニタリング」。利用者にとっても、さまざまなリスクが考えられる上、厳しい要件も課されているため、現場関係者からは「ほとんど活用されないのでは」という声が上がっている。しかし、この導入が突破口となり、10年後にはケアマネジャーの業務範囲が大きく変わる可能性もある。今回は、短期的には影響がないと考えられがちな「オンラインモニタリング」の導入について深掘りしてみたい。
ハードルが高いオンラインモニタリングの要件
厚生労働省が示す「オンラインモニタリング」の条件は、「利用者の同意を得る」「利用者の状態が安定している」「利用者がテレビ電話などを介して意思表示ができる(家族がサポートに入る場合も含む)」、「モニタリングでは把握できない情報について、他のサービス事業者との連携により収集する」の4点。
以上の要件がクリアされたら、オンラインでのモニタリングが認められる。ただし、利用者宅を訪問してのモニタリングも、2カ月に1回(介護予防支援の場合は6カ月に1回)は実施しなければならない。
これだけ高いハードルを課されていては、多くのケアマネは「これまで通り、毎月、訪問したほうが効率的」と考えるに違いない。
そもそも、独居や老夫婦世帯の要介護者にとって、ケアマネの訪問は精神的な支えになって場合も多い。それを思えば、最低でも毎月1回はケアマネが訪問してくれる現行制度は、貴重な仕組みといえる。
「負担軽減」の美名のもと、ケアマネの仕事の範囲が削られる?
ケアマネにとっては使い勝手が悪く、利用者にとってもあまりありがたくはない「オンラインモニタリング」。それだけに、この仕組みをすぐに使おうとするケアマネは、ほとんどいないだろう。
だが、この仕組みの導入が、中長期的にケアマネの仕事の範囲を狭めてしまう懸念はある。「負担軽減」の美名のもと、定期的なモニタリング業務が、他業種に取って代わられる可能性があるのだ。例えば「訪問介護やデイサービスにおけるモニタリングや経過記録による情報収集、ケアマネによる定期的なテレビ電話による本人面談で、ケアプラン作成及び変更が可能となる」という、未来予想図が実現してしまうことを完全に否定することはできないと思える。
懸念点その1 ケアママ不足
そう思える最大の理由は、深刻化し続けているケアマネ不足だ。その深刻さは、ケアマネの有効求人倍率が右肩上がりで上昇し続けていることでもわかる(図参照)。
ケアマネジャー(介護支援専門員)における有効求人倍率推移

24改定では、その不足を解消するための施策の導入を期待していた。しかし、残念ながら24改定には、ケアマネ不足問題を解決できる施策は、ほぼ見当たらない。このままでは、団塊世代が全員85歳となる2035年には、ケアマネ不足はさらに深刻化しているであろう。
もちろん、国も無為無策ではあるまい。24改定の内容から推測すれば、深刻化するケアマネ不足に対応するために、基本報酬が半減する担当件数の上限をさらに引き上げることも考えられる。つまり、1人のケアマネにより多くの利用者を担当してもらうことで、その不足を補おうという施策である。実際、担当件数の上限は、2021年度の介護報酬改定、そして24改定と、連続して引き上げられている。
ただ、昨今のケアマネ不足は、1人のケアマネが担当できる人数を少し増やすくらいでなんとかできるほど軽い問題ではない。そうなれば「ケアマネの仕事を他の職種に割り振ってしまうことで、ケアマネジメントを維持しよう」とする動きが顕在化しても不思議はない。
そこで浮上してくるのが、今回導入されたオンラインモニタリングだ。既に述べた通り、この仕組みの要件には「モニタリングでは把握できない情報について、他のサービス事業者との連携により収集する」が含まれている。モニタリングの一部を他のサービス事業者にお任せするということが、要件に織り込まれているともいえるわけだ。
懸念点その2 新規利用者の抵抗感のなさ
「オンラインモニタリング」は、月1回以上、ケアマネが訪問してくれることを当然と考えている既存の利用者にとっては、魅力のない仕組みと映るだろう。だが2024年度以降に要介護認定を受けた人であれはわからない。例えば、契約時に「訪問は2か月1回。あとはオンラインでの確認が普通なんですよ」と説明されれば、そんなものかと受け止め、理解する人もいるはずだ。さらにいえば、今後、要介護者が急増する団塊の世代は、ICT機器にもそれなりに慣れ親しんだ世代である。それを思えば、積極的にオンラインモニタリングを使いたがる人が増えても不思議はない。
つまり、団塊の世代の要介護者が増えれば増えるほど、オンラインモニタリングが普及していく可能性があるということだ。
当然のことだが、訪問回数が減ってしまえば、ケアマネジメントにおけるケアマネの視点は希薄になる。一方、モニタリングで把握できない情報を届けてくれるサービス事業者の存在感は、大きくなっていくだろう。
最悪の未来を避けるためにも、ケアマネの賃上げを!
当然のことだが、私は最低月1回のケアマネによる訪問面談なくしては適切なケアプラン作成やモニタリングは難しいと考えている。だが、2つの懸念点とオンラインモニタリングの要件を鑑みると、既に述べた「訪問介護やデイサービスにおけるモニタリングや経過記録による情報収集、ケアマネによる定期的なテレビ電話による本人面談で、ケアプラン作成及び変更が可能となる」という未来予想図が、荒唐無稽な絵空事とも言い切れない気がしている。
そんな最悪の未来を回避するためにも、まず、真っ先にやるべきことは.ケアマネ不足の解消である。そのために不可欠なのは、やはり賃上げだ。他業種に引けを取らず、物価高騰にも対応できる賃上げを目指し、2027年度や2030年度の介護報酬改定(必要であれば臨時改定を行ってでも!)でもプラス改定を実現すべきだ。あわせて、法定研修の簡素化などの取り組みも実施していかなければなるまい。

- 結城康博
- 1969年、北海道生まれ。淑徳大学社会福祉学部卒、法政大学大学院修了(経済学修士、政治学博士)。介護職やケアマネジャー、地域包括支援センター職員として介護系の仕事に10年間従事。現在、淑徳大学教授(社会保障論、社会福祉学)。社会福祉士や介護福祉士、ケアマネジャーの資格も持つ。著書に岩波ブックレット『介護職がいなくなる』など、その他著書多数がある。
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