

小濱道博の介護経営よもやま話
居宅介護支援事業所の「大規模化」を考える
- 2022/06/30 09:00 配信
- 小濱道博の介護経営よもやま話
- 小濱道博
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今月7日、いわゆる「骨太の方針2022」(正式名は「経済財政運営と改革の基本方針2022 新しい資本主義へ~課題解決を成長のエンジンに変え、持続可能な経済を実現~」)が閣議決定された。
この中では、「医療・ 介護サービスの生産性向上を図るため、タスク・シフティングや経営の大規模化・協働化を推進する」と記載された。
問題は、「経営の大規模化・協働化を推進する」の部分だ。この方向性は、財政制度等審議会(財務大臣の諮問機関)が先月25日に取りまとめた建議「歴史の転換点における財政運営」で明記され、介護サービスの経営主体に小規模な法人が多いことを踏まえ、「経営の大規模化・協働化を図ることが不可欠である」と断じている。
コロナで浮き彫り 大規模化の課題
経営の大規模化・協働化の課題は、新型コロナの感染拡大で生じたさまざまな問題を通じて浮き彫りになった。介護職員が感染したり、あるいは濃厚接触者になったりしたことで、全国的に介護に従事する職員数が減少。特に小規模な事業所では、休業や事業の縮小を余儀なくされ、自宅や事業所の高齢者の支援が行き届かなくなる事態が頻発した。
小規模な法人では、介護サービスの質の向上にも限界がある上、業務の効率化も不十分になりがちだ。新型コロナのような未曾有の事態に直面すると、業務の継続はおろか、施設内療養の実現もおぼつかなくなる。
規模の大きな事業所・施設や事業所の数が多い法人ほど平均収支率が高くなるなど、スケールメリットが働き得ることは事実だ。
建議では、「効率的な運営を行っている事業所等をメルクマールとして介護報酬を定めていくことも検討していくべきであり、そのようにしてこそ大規模化・協働化を含む経営の効率化を促すことができる」と指摘された。
要は、スケールメリットを生かせない小規模な事業所の報酬を引き下げることで、半強制的に事業規模の拡大を促し、介護給付費の増大を防ごうとしているのだ。大規模化に対応できない小規模な事業所は、自然淘汰されるリスクがあると言える。
協働化の鍵は「連携推進法人」
「協働化」の鍵を握るのが、今年度からスタートした社会福祉連携推進法人制度だ。
「社会福祉連携推進法人」(以下、連携推進法人)とは、社会福祉法人を中心とした新たな法人で、登記上は一般社団法人の形をとる。NPO法人や株式会社などが「社員」として参加し、過半数は社会福祉法人、2法人以上が社会福祉事業を実施している法人であることなどが要件だ。
ただ、連携推進法人自体は、介護サービスの許認可を取得できない。介護サービスは従来通り、「社員」である各法人が提供する。
連携推進法人の主な業務は、地域共生社会の実現に資する「連携支援」で、▽「社員」である施設の委託による求人代行業務▽共同研修の実施▽介護ロボットやICT機器の共同購入―などがある。職員研修を一体的に提供することで、講師料などのコストを抑えるとともに、レベルの高い研修を実施できるなど、事業の大規模化による優位性を生かすための仕組みと言える。
新制度では、「社員」である社会福祉法人が連携推進法人側に貸し付け、連携推進法人はそれを原資に他の「社員」である社会福祉法人に貸し付けることができる。現在、社会福祉法人間の資金の貸借は認められていないが、それを実質的に容認する格好形となっている。
スケールメリットとは何か?
スケールメリットは「規模の利益」ともいわれる。
家賃やリース料、事務員の給与などの「固定費」は、ケアマネジャーが増えても変わらない。仮に、1つの事業所に給与30万円の事務員が1人いたとして、拠点を2つに増やしても、経理関係をこの事務員が1人で担当できれば、1拠点当たり30万円だった人件費は半分に減り、その分、拠点ごとの利益は増える。さらに拠点が3つになれば、1拠点当たりの負担は10万円に減り、利益はさらに5万円アップする。
つまり、事業規模が大きくなるほど、資源を効率的に活用でき、全体のコストが減るため、その分利益が増えるというわけだ。例えば、浮いたお金を研修費に投資すれば、職員のケアの質が向上し、職員と利用者双方の満足度が上がり、稼働率も向上してさらに利益が増える―といった好循環も期待できる。これが「規模の利益」だ。
大規模化に人材育成は不可欠
前述の通り、介護事業におけるビジネスモデルが、「スケールメリット(規模の利益)の追求」にあることは周知の事実だ。
介護サービスの多くは定員が設けられており、それを超えてサービスを提供すると定員超過減算となる。“同じ箱”の中で収益を伸ばそうとすると、新たな加算を取得するか、業務の効率化で経費を削減するぐらいしか方法はない。よって、必然的に拠点を拡大することが求められる。
その方法は、新規開業やM&Aによる事業譲渡が中心となるが、いずれの場合も、拠点の管理を任せられる幹部職員の育成が不可欠である。一定レベルの管理者を育てることができないと、介護の質の低下を招き、法人全体の足を引っ張りかねない。
ただ、中小規模の法人では資金や人材に限りがあり、効果的な結果を生みにくい。このため、地域で連携して職員研修を行ったり、LIFE(科学的介護情報システム)を共同で活用したりする取り組みが重要になる。
居宅の減少傾向は統合の影響?
居宅介護支援事業所の大規模化を考えた時、既にケアマネと利用者がいる事業所の統合や事業譲渡が効率的だろう。
一時期よりも基本報酬が改善されているとはいえ、「特定事業所加算」を算定しないと収益化が実現しない基本構造は変わらない。算定のためには少なくとも、主任ケアマネ1人に加え、常勤2人(区分3)または常勤1人+非常勤1人(区分A)のケアマネが必要だ。資格を取ったばかりの新米ケアマネを雇用しても、一定の利用者を確保するまでには相当の時間がかかる。
このところ、居宅介護支援事業所の数は減少傾向にある。この背景には、一部で事業所の統合が進んでいることが考えられる。

- 小濱道博
- 小濱介護経営事務所代表。株式会社ベストワン取締役。北海道札幌市出身。全国で介護事業の経営支援、コンプライアンス支援を手掛ける。介護経営セミナーの講師実績は、北海道から沖縄まで全国で年間250件以上。個別相談、個別指導も全国で実施。全国の介護保険課、介護関連の各協会、社会福祉協議会、介護労働安定センター等主催の講演会での講師実績も多数。C-MAS介護事業経営研究会・最高顧問、CS-SR一般社団法人医療介護経営研究会専務理事なども兼ねる。
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