小濱道博の介護経営よもやま話小濱道博の介護経営よもやま話

小濱道博の介護経営よもやま話

※この記事は 2023年11月30日 に書かれたもので、内容が古い可能性がありますのでご注意ください。

居宅介護支援の「黒字」は何を意味するのか

厚生労働省は11月10日、介護事業経営実態調査(以下、経営実態調査)の結果を公表した。

この調査は3年に1回実施され、翌年春の介護報酬改定のエビデンス(根拠)の1つとなる。この調査の中間年には介護事業経営概況調査が行われるが、こちらはサンプル数が少なく、経営実態調査と比べると信ぴょう性は低い。

経営実態調査では、サービスごとの収支差率が示される。収支差率は利益率ともいわれる数値だ。

今回、全サービスの平均の収支差率は2.4%であった。これは、100万円の収入があったと仮定すると、介護業界で平均2万4千円の利益(2.4%)があったという意味である。

財務省の財政制度等審議会(財務大臣の諮問機関)は、2024年度の予算編成などに向けた建議(意見書)で、この数字の解釈について言及している。まとめると以下のようになる。

経営実態調査の収支差は、特別費用である「事業所から本部への繰り入れ」は差し引かれているものの、特別利益は含まれておらず、計算に偏りがある。特別費用を除くと、全サービスの平均の収支差率は4.7%で、中小企業の水準(3.3%)を上回る。サービス類型ごとで見ても、中小企業の水準を上回るサービスが多い。収支差率の良好なサービスについては、令和6年度(2024年度)の介護報酬改定で報酬水準の適正化・効率化を徹底して図るべきである。

経営実態調査の結果は、収支差率の高いサービスの報酬単位を引き下げ、反対に低いサービスの報酬単位を引き上げる、いわば“調整弁”の意味合いが強い。

今回、居宅介護支援事業所の税引き前収支差率は、コロナ補助金と物価対策補助金を含まない場合で4.9%、含む場合で5.1%と非常に高く、引き下げの対象として狙われやすいことがわかる。

第231回社会保障審議会介護給付費分科会の資料より抜粋

黒字の分岐点は「利用者100人」

居宅介護支援事業所の税引き前収支差率(コロナ補助金と物価対策補助金を含まない場合)を詳しく見てみると、1カ月の利用者数が40人以下の場合はマイナス4.80%だったのに対し、201人以上は12.3%である。

このグラフは、2008年度以降の経営実態調査の結果について、利用者数別に分析したものである。

小濱介護経営事務所作成

見ての通り、利用者数が少ない小規模事業所ほど赤字幅が大きく、反対に利用者数が多い大規模事業所ほど収支差率は高くなっている。

こうした傾向は他の介護サービスにもいえる。同じことを同じようにやったとしても、事業所規模が大きくなるほど、手元に残る利益も大きくなるのだ。これを「スケールメリット(規模の利益)」と呼ぶ。

居宅介護支援事業所も例外ではなく、特に、特定事業所加算の算定に必要な「主任ケアマネジャー1人+常勤ケアマネジャー2人以上」となることが、収益安定化の必須要素となっている。各年度の経営実態調査の結果からも、スケールメリットが確認できるだろう。

前出のグラフを見ると、居宅介護支援事業所の収支がプラスに転換する分岐点は、おおむね利用者数100人であることがわかる。

「利用者数100人」ということは、ケアマネジャー3人以上の体制、すなわち、特定事業所加算の算定が可能な人員配置だ。言い換えると、特定事業所加算を算定しない限り、居宅介護支援事業所の収支はマイナスであるということだ。

これは、介護報酬上で意図的に仕向けられていると言えなくもない。厚労省は、居宅介護支援事業所に独立性を求めるとともに、大規模化を推奨している。大規模事業所が有利な報酬体系が維持されているのは、その意思の表れともいえる。

事業所の再編・統合の流れは“本物”

居宅介護支援事業所の収支差率がプラスに転換したのは、ここ数年のことである。それまでは長期にわたってマイナスであった。なぜ、収支差率はプラスに転じたのか―。

令和3年度(2021年度)の介護報酬改定に伴い、基本報酬の算定における逓減制が条件付きで緩和され、ICT機器の活用などで、ケアマネジャー1人当たりの取扱件数の上限は39件から44件に引き上げられた。

しかし、新設された居宅介護支援費IIの算定率は全体の1割弱と決して高くはないため、収支差率への影響は小さいと思われる。

居宅介護支援事業所の請求事業所数は年々減少している。ケアマネジャーの平均年齢が高いことから、引退による廃業が要因の1つとして考えられるが、請求事業所数を詳しく見てみると、特定事業所加算の算定事業所数は増加している。

このことから、同加算を算定するため、小規模事業所が再編・統合し、ケアマネジャー3人以上の事業所に生まれ変わっているとの見方もできる。同加算IIIを算定するだけで、基本報酬が1.3倍に増えることを考えると、事業所の再編・統合が、収支差率アップの大きな要因になっている可能性が高い。

ではなぜ、事業所の再編・統合が進んでいるのか―。

小規模事業所の多くは、訪問介護や通所介護を併設している。在宅サービスの新規利用者の獲得につなげることが主な狙いだ。しかし、訪問介護と通所介護の事業所数が急増し、競争が激化している中、居宅介護支援事業所を併設するメリットは小さくなってきている。

コロナ禍の影響で在宅サービスの収益率そのものが激減し、赤字体質の小規模な居宅介護支援事業所の“切り離し”が進んでいることも、再編・統合が進んでいる要因の1つとして考えられる。

今回の経営実態調査で、居宅介護支援の収支差率が上昇したことは、こうした再編・統合の流れが“本物”であることの証左といえる。事業所の大規模化の流れは、今後も自然と進んでいくだろう。

小濱道博
小濱介護経営事務所代表。株式会社ベストワン取締役。北海道札幌市出身。全国で介護事業の経営支援、コンプライアンス支援を手掛ける。介護経営セミナーの講師実績は、北海道から沖縄まで全国で年間250件以上。個別相談、個別指導も全国で実施。全国の介護保険課、介護関連の各協会、社会福祉協議会、介護労働安定センター等主催の講演会での講師実績も多数。C-MAS介護事業経営研究会・最高顧問、CS-SR一般社団法人医療介護経営研究会専務理事なども兼ねる。

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