小規模多機能型居宅介護、略して「小多機」。専従のケアマネジャーが配置されていることもあり、居宅介護支援事業所で働くケアマネには、ちょっと縁遠い存在でもあります。その現場に10年あまり立ち続けているうりさんが、小多機の濃くて癖ツヨな実情を、赤裸々に語ります！

重度の認知症のご利用者様の「言葉」を取り戻す！

綾●はるか似の美人さんなのに、「ぶっ飛んだ」対応で回りをヒヤヒヤさせるコボちゃん。それでいて、ご利用者様との距離を縮め、その残された力を引き出す天才でもありました。

中でも印象深かったエピソードは、重度の認知症のご利用者様の「言葉」を取り戻したことでしょう。そのご利用者様・恵美子さん（仮名）は、要介護4。話しかければ笑ってくれるのですが、言葉を発することはありませんでした。

それでもコボちゃんは、かまうことなく「恵美子さん、うちに桃太郎の話聞かせてや！」と、毎日のように話しかけていました。なぜ、コボちゃんがそんなこと始めたのかはわかりません。ただ、コボちゃんから話しかけられると、恵美子さんも、とてもうれしそうに笑っていたのは覚えています。

そんなある日、コボちゃんが満面の笑顔で、走ってきました。そして「うりさん！ちょっと聞いてあげてや、恵美子さん、桃太郎の話してくれるんやざ（してくれるんですよ）」と、恵美子さんのところまで引っ張っていきました。

もちろん、私は半信半疑。というより、（そんなはずは、ないよなあ…）と思っていたのですが、コボちゃんが「ほんならあ、恵美子さん！桃太郎、お願いします。むか～し、むかしあるところに、おじいんさんとおばあさんがいました」と切り出すと

「おじいさんは山に柴刈りに、おばあさんは川に洗濯に行きました」

なんと、続けて恵美子さんが話すではありませんか！その後も、ところどころコボちゃんが補いながらも、恵美子さんは、桃太郎がお腰につけたきび団子で犬・猿・雉を仲間にし、鬼ヶ島で大活躍する様を話し切ってしまいました。

この業界で働く人なら、いや、認知症の方と接したことがある方なら、この話がどのくらいすごい「奇跡」か、わかってくれるでしょう。

「口も態度もよろしくない」コボちゃんは、こうして事業所の中で徐々に認められていき、主任に抜擢されました。

電話の「涙活」で立ち直ってしまう

そんな彼女ですが、一度だけ、その弱音を聞いたことがあります。それは彼女が夜勤の予定だったある日のお昼頃。突然、電話がありました。「うりさん、今日の夜勤なんやけど…うち、しんどくて…」と、珍しく電話口で泣いているのです。「最近、おいちゃんが夜になると、ひどいやろ？なんか、うち、疲れてしもて」と。

この頃、95歳の男性ご利用者様が、一晩中、事業所内を歩き回り、他の部屋に入ったり、外に出て行こうとされたり、という状態でした。コボちゃんは、そのご利用者様に一晩中よりそい、「おいちゃん、どした？うちと一緒にここ座んねの（座りませんか）」と、必死に働きかけていたのです。

でも、その方はいくらコボちゃんが不眠不休で働きかけても、ほとんど反応を示さず、歩き回るばかりでした。コボちゃんの涙など、初めての事。思わず「今日の夜勤は、代ろうか？」と言うと、「…うりさん、やっぱ、私がんばる！ちょっとつらくなっただけやったし」と、急に、いつもの元気な声を出してきました。

わずかな時間の電話の「涙活」で立ち直ってしまったコボちゃん。回復力も並みではありませんでした。

どんな癖ツヨなご利用者様にもひるまずに素で対応して、その方の心の深いところにあるニーズをつかみとってしまうコボちゃん。そんなスゴイ人材と巡り合え、一緒に働けてしまうのが小多機のだいご味だと思うのです。