“あるある”で終わらせない!失敗を生かすケアマネジメント
ケアマネの思いとは真逆の支援…“安全第一”より大事なもの
- 2024/03/13 09:00 配信
- “あるある”で終わらせない!失敗を生かすケアマネジメント
- 山田友紀
-
ケアマネジャーとしての思いとは真逆の支援内容をお伝えするため、私はAさんの病室へ向かいました。
「階段の昇り降りが危ないので、退院後に寝室の場所を1階に変えていただきます」―。
私がこう話すと、Aさんは「ベッドが置ける部屋なんかあったか?」と尋ねられました。Aさんの寝室へのこだわりの強さを改めて知りつつも、私は「1階の和室にベッドを置くそうです」と、冷静にお伝えしました。
「あの部屋は孫の物(おもちゃ)が置いているで!?」と、びっくりした表情を見せるAさんでしたが、私が「そのようですね。奥様が片付けるとおっしゃっています」と返した途端、その顔が険しくなりました。
そして、「わしは階段上がれる!なんで1階にベッドを置くんや!」と、いつもより大きな声を出されたのです。私は胸が痛みました。
「なんであんたらに決められないとダメなんだ!」
「階段の昇り降りができることは先日確認しました。私は2階でも良いと思ったのですが、病院のリハビリの先生や看護師さんから、『階段から転落する危険度が高いので、寝室を1階に移動するようお願いします』と相談がありました。奥様はかなり悩まれていましたが、最終的にベッドを1階に持ってくることになったんです」
私は必死で説明しましたが…、ダメでした。
Aさんはきっと私をにらみ、「わしの家のことやのに、なんであんたらに決められないとダメなんや!」と不満を爆発させました。私の胸に、鋭利なものがザクっと刺さったような感覚が走りました。
病棟の看護師や妻に暴言も…荒れるAさん
その日からAさんは、病棟の看護師や妻に暴言を浴びせるようになりました。一方、妻は自分の判断を悔やみ、反省の言葉を口にするようになりました。
病院側は、「Aさんの認知症状が悪化しています。この状態で退院してからの介護は奥様の負担になるので、ケアマネジャーの方で施設を探すなどの対応を検討してください」と要請してきました。
さらにその後、追い打ちをかけるように、「Aさんの暴言がかなりひどいです。手をあげるようなことがあれば、すぐに強制退院になりますので、在宅の環境整備を早くしてください」と、追加の連絡が入りました。
妻と話し合った末、退院後は、私がこまやかに訪問して状況把握に努め、柔軟に環境を整えることで合意しました。
寝室の移動に一度は納得したものの…
退院日、私はAさんの自宅へ向かいました。
Aさんは認知症なので、寝室を移す話は忘れていましたが、1階に置かれたベッドを見て、「ここはわしの部屋でないけど、ここで寝るのか?」と、怪訝そうな表情で妻に尋ねました。妻が「そうよ。しばらく1階で寝て。調子が戻ってきたら、2階で寝てもいいから」と言うと、その時は納得されたご様子でした。
ところが、翌日心配になって連絡してみると、妻は一転して「山田さん、やっぱり、今夜から2階に寝かせます」とおっしゃいます。理由を尋ねると、思いがけない言葉が…。
「夜中に目を覚ますと、夫が私の隣のベッド(元のAさんのベッド)で寝ていました。びっくりして、夫を起こしてから、一緒に階段を降りて寝かせたんですけど、数時間後、夫がトイレに行く音が聞こえたので、息をひそめていたら、階段を上がってきたの。あわてて階段昇降の見守り介助をして、そのまま2階で朝まで寝ました。こんなことなら、2階にはおトイレもあるし、2階で寝てくれた方が安心です。ぼけていても、習慣は消えませんね。(階段から)こけた時はこけた時です」
こう話す妻の声ははきはきしていて、なんだか自信に満ちていました。
“安全第一”より大事にしたいものがある
病院側の“安全第一に環境整備”は重要な視点ですが、退院して生活主体の場面になると、「安全第一はわかるけど、それよりも大事にしたいものがある」というご家族の価値観が優先されます。
リスク回避や再入院防止の視点に立った病院側の提案、ケアマネジャー目線で見た状態悪化防止、自立支援に向けたご利用者・ご家族の自己決定―。これらの支援は、いずれもケアマネジャーの大切な役割です。
ご利用者やご家族は、時にはデメリットが多い選択をするかもしれません。
でも人間って、それが足りない愚かな行為・決断であったとしても、他人に邪魔されず、自由に生活する権利を持っています(「愚行権(ぐこうけん)」と言います)。
ご利用者やご家族がそのような選択をしたとしても、ケアマネジャーとしてそれを受容し、デメリットやリスクを説明した上で、適度な距離を保ちながら、何か起こった際はすぐに支援できるよう、スタンバイしておく―。こうした姿勢が、ケアマネジャーには必要です。
自らが適切と考える支援について、ケアマネジャーとして病院に自信を持って伝えること、そして、ご自身で生活課題を乗り切っていただけるよう、ご利用者・ご家族をサポートし、信頼し続けることの重要性を学んだ事例でした。

- 山田友紀
- 特別養護老人ホームやデイサービス、訪問介護、居宅介護支援の相談業務などに従事した後、2016年、京都市内でデイサービスなどを運営する株式会社「ふくなかまジャパン」の取締役に就任。2018年以降は、同市内にある居宅介護支援事業所「ふくなかま居宅介護支援センター」の管理者も務める。現在は、マネジメントや人材育成の講師を務めているほか、一般財団法人生涯学習開発財団が認定する「プロコーチ」としても活動している。
スキルアップにつながる!おすすめ記事
このカテゴリの他の記事
こちらもおすすめ
ケアマネジメント・オンライン おすすめ情報
介護関連商品・サービスのご案内
ケアマネジメント・オンライン(CMO)とは
全国の現職ケアマネジャーの約半数が登録する、日本最大級のケアマネジャー向け専門情報サイトです。
ケアマネジメント・オンラインの特長
「介護保険最新情報」や「アセスメントシート」「重要事項説明書」など、ケアマネジャーの業務に直結した情報やツール、マニュアルなどを無料で提供しています。また、ケアマネジャーに関連するニュース記事や特集記事も無料で配信中。登録者同士が交流できる「掲示板」機能も充実。さらに介護支援専門員実務研修受講試験(ケアマネ試験)の過去問題と解答、解説も掲載しています。



