ケアマネを支える先進自治体 VOL.26
【日高村】めざせ普及率100%!「高齢者もスマホを使える村」の挑戦(後編)
高知の県都から約16km、抜群の水質を誇る仁淀川沿いに位置し、自然の恵みにあふれた日高村。一見、地方の典型的な村のようですが、実は「村まるごとデジタル化事業」が積極的に推進されており、住民におけるスマートフォンの普及率は全国トップクラス。高齢者にもテジタルツールを使いこなしてもらうため、どんな取り組みをしたのでしょうか。本事業で中心的な役割を担った日高村役場の安岡周総主幹に伺いました。
安岡周総(やすおか・まさふさ)さん
(日高村役場 企画課 主幹/友達つくる担当/テントサウナー/ファシリテーター)
デジタル化が高齢者にもたらす恩恵とは?
―日高村にスマートフォンが根付いたことを、安岡さんが実感したタイミングはありますか。
2021年6月から始まった「村まるごとデジタル化事業」ですが、約4800人いる住民のうち、自治体のLINEアカウントに登録している方は現時点で1700人ほど。健康や防災などに関する大切な情報をスマートフォンで入手できる方は、以前に比べて確実に増えています。2023年 6月に線状降水帯による水害が発生した際は、「どうして早くLINEで情報発信しないんだ!」と、お叱りの電話を受けたくらいです。スマートフォンの利便性が、本当に住民の生活を変えつつあることを実感しました。
―デジタル化で高齢者が受けるメリットについて、安岡さんも身をもって実感したことがあるとか。
私には86歳になる祖母がおり、先日、変形性膝関節症で1か月ほど入院しました。コロナ禍でお見舞いに行けず、そのまま認知症になってしまうのではないかと心配していたのですが、ある日、祖母の方からビデオ電話がかかってきたのには驚きました。少しでも使えればと持たせていたスマートフォンを使って、看護師さんに使い方を聞きながら何とかしたのですね。直接会えなくてもスマートフォン越しにコミュニケーションできたこともあってか、認知機能の衰えなく退院できました。入院や施設入居をしている方が社会復帰しやすい環境をつくるという側面からも、デジタル化の意義は計り知れないと感じた出来事でした。
企業などとタッグを組んで事業創生を強化
―村内のITインフラを生かした活性化事業を、企業や団体の力を借りながら展開しているそうですね。
「まるごとデジタルみらくるプロジェクト」と銘打って、実証事業を希望する企業や団体などを募集し、一緒になって日高村が抱える社会課題の解決や住民の生活の質向上に向けた取り組みを進めています。本プロジェクトの第1弾として誕生したのが、村民向け健康アプリ「まるけん」。健康分野のサービスはサスティナブルで偏りのないものである必要があることを踏まえて、行政が介入するかたちでの開発を実現させました(企業版ふるさと納税の寄付金を活用)。シンプルなインターフェイスで万歩計や健康管理の機能を備えるほか、地域通貨「とまぽ」にポイントを還元できる仕組みも入れました。いずれは社会保障費の抑制にもつながるのではと期待しています。
―介護業界やケアマネジャーに直接関係するような事業は誕生していますか。
まだ実働には至っていませんが、AI技術開発を手がけるemotivE社と推進する「対話型AIによるフレイル予防と見守り」が事業化されています。対話型AIである「マハロ」を活用して、高齢者の見守り、コミュニケーションの促進、フレイル予防のための働きかけやデータ取得をめざす内容です。会話の記録などをケアマネジャーにも連携する想定で、稼働し始めれば介護業界との関わりはいっそう深まるでしょう。こうした事業を本格化するにあたって現場の声は非常に重要なので、ぜひ勉強させていただきたいと思っています。
デジタル化への心理的バイアスを取り除こう
―デジタル化については、多くの介護事業所からも悩む声が聞こえてきます。アドバイスがあればお願いします。
デジタルデバイド(デジタル技術の恩恵を受けられる層と受けられない層の間に生じる情報格差)というと、高齢者や要介護者の困っている姿がイメージされがちです。しかし、介護事業所に新しいシステムを導入しようとしたとき、スタッフから「私には無理」「今さら勉強するなんて……」といった反応がみられるなど、同じような課題が横たわっていることがあります。
要はスタッフの心理的バイアスがハードルになっていることが多く、デジタル化を進める側としては、それを取り除くように働きかけることが大切です。そのためにはやはり、当初の難しさを乗り越えた先にどんな未来があるか(利用者によりよいサービスを提供できる、業務負担を軽減できるなど)を発信することがカギになるでしょう。
―最後に、ケアマネジャーに向けてメッセージをお願いします。
ケアマネジャーの皆さんは、利用者さんやそのご家族と直接顔を合わせながら、日々懸命に働いています。だからこそ、孤軍奮闘のような状態にさせず、「自分は一人じゃない」と感じてもらうことに意味があると思っています。すでに介護従事者は超多忙な状態で、これ以上負担をかければ制度ごと破綻しかねず、そうした事態を回避するために動いている行政や企業、団体などがたくさん存在します。ケアマネジャーの皆さんも、ぜひそうした取り組みに目を向け、必要に応じて手を取り合っていただければ幸いです。
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