白木裕子の「実践! 仕事力の磨き方」 VOL.07
食や栄養面にトラブルを抱える人への対応のポイント(前編)
日本ケアマネジメント学会副理事長の白木裕子先生が、介護保険制度や社会情勢に対応するためのポイントや心構えを、わかりやすく伝授する「実践! 仕事力の磨き方」。今回は、食や栄養にトラブルを抱える人への対応についてです。
「何をどのくらい食べているか」を丁寧にアセスメント
「利用者さんがきちんと食べていないことが、いつも気にかかっている…」というケアマネジャーさんは少なくないと思います。とにかく栄養をつけてもらおうと、栄養補助食品や介護食を勧めたことがある人もいるでしょう。
そのこと自体は、とても良いことです。ただし、「食べない→栄養補助」だけでは、ちょっと短絡的。取り組みをより有効なものとするため、押さえてほしいポイントがあります。
まず大切なことは、「何をどのくらい食べているのかを丁寧にアセスメントすること」です。家族がいない場合、「満腹になれば、何でもいい」という発想で、お菓子だけしか食べずに何日も過ごしてしまう人や、あんパンと牛乳だけで食事を済ませるという人が珍しくありません。お酒とちょっとしたおつまみだけしか摂らない人もいます。特に一人暮らしの利用者さんに対しては、セルフネグレクトを防ぐ意味でも、しっかりとしたアセスメントが不可欠です。
中には、自分が何をどのくらい食べているのか、あまり覚えていない人もいます。その場合は、ヘルパーさんから情報を集めましょう。具体的には、「どんなものを食べ残すか」や「生ごみが出ているかどうか」などを確認すべきです。デイサービスに通っている人であれば、事業所から体重の変化などの情報も教えてもらいましょう。
歯科医師と連携し、口の中や飲み込みに問題がないかを探る
アセスメントの結果、食事の量が少ないことがわかったら、次に「なぜ食べないのか」を探ります。具体的には口の中や飲み込みにトラブルを抱えていないかを確認することになりますが、その際、重要なのが口や歯のエキスパート・歯科医師との連携です。
歯科医師との連携をスムーズにするために、「かかりつけの歯科医師は誰か」や「最後にかかりつけの歯科に行ったのはいつなのか」といった情報も確認しておきましょう。かかりつけの歯科医師がわかれば、過去のレントゲン写真や治療歴といったデータから、トラブルの原因を探ることができます。
歯科というと、すぐに訪問歯科につなごうとする人もいますが、訪問歯科では、レントゲン写真などのデータは、ほぼ得られません。まずは、かかりつけ歯科医師との連携を心掛けましょう。場合によっては、受診に同行することも検討すべきでしょう。
口や飲み込みのトラブルを考える上で見落としてはならないのが義歯です。そのトラブルを見過ごしてしまうと、「入れ歯はあるけど、なんだか合わないから、ご飯を食べる時には外す」という、本末転倒な状況になってしまいます。こうした事態を防ぐためにも、かかりつけの歯科医師や歯科衛生士と積極的に連携しましょう。
※80歳代後半で認知症もある方のプラン。義歯のトラブルなどの影響で栄養状態が悪化し、体重は半年で5キロ減少。歩行もおぼつかなくなっていました。歯科受診と栄養指導、デイサービスの利用などよって、日課だった夫婦での散歩の再開を目指しています。
ちょっとした工夫が問題解決につながる場合も
ただし、いくら原因を探っても「大した理由もないのになんとなく食べる意欲がわかない」という人もいるでしょう。そういう場合は、ちょっとした工夫で、問題があっさり解決することもあります。
例えば、足が床に着かないような場所では、それだけで食欲がなくなるもの。踏み台でも段ボールでも何でもいいので、足が着いた状態で食べられるよう環境を整えましょう。ベッドの上で食べるにしても、あごが上がり、口が上を向くような姿勢では、食べにくいだけでなく、誤嚥の原因にもなりかねません。上体を起こし、前かがみで食べられる姿勢を取るようアドバイスしましょう。
また、「主食は食べてくれるようになったけど、それでも肉や魚には手を出そうとせず、たんぱく質不足が心配…」という場合もあるでしょう。そうした人には、インスタントコーヒーに豆乳を加える「豆乳カフェオレ」と、食パンにチーズを載せて焼く「チーズトースト」を勧めてみてください。この2品があれば、簡単にたんぱく質もカルシウムも摂ることができます。
飲み込みの悪さが食欲不振につながっている人の場合、有効なのが介護食です。介護する人の負担軽減にもつながることを思えば、とても役立つ商品といえるでしょう。ただし、この商品を使う場合は、利用者さんの嚥下の状態を見極め、その人に合った商品を選ぶ必要があります。そして、その際にも専門家である歯科医からのアドバイスは有効です。
- 白木 裕子 氏のご紹介
- 株式会社フジケア社長。介護保険開始当初からケアマネジャーとして活躍。2006年、株式会社フジケアに副社長兼事業部長として入社し、実質的な責任者として居宅サービスから有料老人ホームの運営まで様々な高齢者介護事業を手がけてきた。また、北九州市近隣のケアマネジャーの連絡会「ケアマネット21」会長や一般社団法人日本ケアマネジメント学会副理事長として、後進のケアマネジャー育成にも注力している。著書に『ケアマネジャー実践マニュアル(ケアマネジャー@ワーク)』など。
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